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ブラジル経済“長い冬”はいつ終わるか。五輪効果も期待薄、耐える日系企業

 ブラジル経済が長い冬に入っている。鉄鉱石、原油の資源安が輸出に響き、1日に発表された2015年7―9月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比4・5%減と、大きく落ち込んだ。景気の先行き不安から、設備投資は低調で、個人消費も低迷している。同国に進出した日本企業は17年以降の景気回復を視野に事業の軌道修正を図っている。

各業界の状況は


<造船>状況改善兆しなく
 三菱重工業IHI川崎重工業などがブラジルの造船・海洋合弁事業で巨額の損失処理に踏み切った。ペトロブラスをめぐる汚職問題に絡み、ドリルシップ(掘削船)などの発注者であるセッチ・ブラジルからの支払いが14年11月から途絶え、状況改善の兆しが見えないためだ。損失額は3社合計で数百億円に及ぶ。

 汚職疑惑に原油安という蟻(あり)地獄にはまったペトロブラスは15―19年の設備投資を6月時点の1303億ドルから984億ドルへ下方修正。浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備(FPSO)の建造計画も3割以上減らした。川重が出資するエンセアーダも受注済みの6隻のうち2隻がキャンセルされた。

 ただ、ブラジル造船業の再興は政府間の話し合いを起点としており「赤字だからといってやめるのは賢くない」(太田和男川崎重工業常務取締役)。エコビックス―エンジェビックスとの資本提携を解消した三菱重工も「関係自体がなくなったわけではない」(広報)と、要請に応じて技術支援を継続する。

<鉄鋼>合理化策推進
 鉄鋼業界も不振が続く。15年の粗鋼生産量は約3324万トンで4年連続の減少。ウジミナスが高炉を休止するなど各社が合理化策に動いている。

 日本企業の業績にも影が差す。新日鉄住金は「持ち分法適用会社のウジミナスの業績が振るわず、当社の15年4―12月期決算で126億円もの持ち分法投資損を出している」(太田克彦副社長)と、ただでさえ厳しい業績の足を引っ張っている。

 新日鉄住金では「引き続きウジミナスの技術操業支援を行っていく」(同)方針だが、「ブラジルの基準金利は14、15%。固定資産を抱える製造業の経営環境としては非常に厳しい条件下にある。できることをやるしかない」(同)という。

<商社>インフラ分野などに活路
 資源の市況低迷が長引く中、大手商社では交通などのインフラ分野や食料関連の事業に乗り出す動きが広がっている。ブラジルはコーンや大豆など穀物の一大生産国で、人口増加も見込まれる。これらの事業を強化し、安定収益と世界の食料需要の取り込みを図る。

 三井物産はブラジルでの投融資残高が約9000億円と商社で最も多く、資源開発をはじめ農業や教育など幅広く事業を展開。特に近年は、国内のガス配給や旅客・貨物鉄道などインフラ分野で事業を拡大している。

 穀物関連では、集荷体制強化や生産支援に参画する動きもある。丸紅が現地穀物集荷子会社の穀物サイロを増設し、輸出能力を高める。住友商事は15年、農薬や種子、肥料などの農業資材問屋に出資。現地の農業資材市場の成長を取り込む。

<自動車>新車販売減速
 ブラジル全国自動車製造者協会(ANFAVEA)によると、15年の新車販売は前年比27%減の257万台。世界4位の400万台に迫るまでに拡大したかつての勢いはない。欧米のフィアットクライスラー、ゼネラルモーターズ、フォルクスワーゲン、フォードのいわゆる”ビッグ4“は軒並み2ケタ減となり、生産調整に追われている。

 日本車の中ではホンダが前年比1割増と健闘しているが「(経済情勢の)見通しが皆目見当が付かない」(岩村哲夫副社長)として15年内に操業を予定していた新工場の操業時期を2度延期した。現時点で操業時期は未定だ。日産自動車は通貨安による調達コスト増大を減らそうと部品調達の現地化を計画より前倒しで進めている。

 一方でANFAVEAによれば15年のブラジルからの輸出台数は前年比25%増。通貨安や生産能力を活用しようと輸出に活路を求める動きもある。市場が急速に縮小する中で、高金利政策による資産効果で、アウディやメルセデスベンツなど高級ブランドの販売が4割近い伸びを示している点も注目される。

<電機>安定需要確保
 電機各社にも個人消費冷え込みの影響が出ており、15年の業界需要は前年を下回り、16年も厳しい環境が続く。パナソニックは音響・映像(AV)機器事業が厳しく、15年のテレビ事業は中南米全体で黒字確保する程度。16年も同じ状況が続く見通しだ。現地生産する冷蔵庫や洗濯機などの白物家電は、リオ五輪のワールドワイド公式パートナーの立場を生かしたプロモーションを展開し、販売拡大を狙う。一方、映像配信システムや車載オーディオなどのBツーB(企業間)事業へのシフトも進める。

 ダイキン工業は家庭用、業務用の空調機器を現地生産。15年度は業界と同様に前年割れの見通し。パッケージエアコンなど得意の業務用空調の販売に力を入れる。工場用FA機器、昇降機、自動車用電装部品などを展開する三菱電機。景況が好転しないなか、鉄道車両用電機品の保守サービス体制を強化し、安定需要を確保する。

 ブラジル経済の冬は続くが、日本企業は比較的安定した需要が見込める事業領域を見いだし、経営資源を集中させている。

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日刊工業新聞2016年2月19日「深層断面」
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
昨年末にルセフ大統領と対立していた財務相が退任、改革路線の後退が避けられない。財源が足りない中で財政の緊縮路線を進めてきたが、それも転換するだろう。もはや「BRICs」という言葉は死語かもしれないが、その中でもブラジル、ロシアは相当にきつい。中国は別の意味で大変だが。インドがどこまで改革・成長路線を歩めるか。    

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