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「郵政vsヤマト、佐川」宅配・メール便戦争の勝者は?

国内、不毛な消耗戦。海外大型M&Aに疑問の声も
 「いい競争で、いいサービスを。」―。2015年11月12日、全国の主要紙にヤマト運輸の意見広告が掲載された。11月4日に上場したばかりの日本郵政の子会社・日本郵便の攻勢を非難する内容だった。

 ヤマトの主張はこうだ。―日本郵便は郵便業務と宅配便事業である「ゆうパック」や「ゆうメール」の両方を手がけているが、郵便のユニバーサル(全国一律)サービスを維持するため、国から固定資産税の軽減や通関手続きの簡素化などさまざまな優遇措置を受けている。これでは公正な競争ができない―。

「信書の壁」厚く


 15年3月、「宅急便」に次ぎヤマトの売上高の10%弱を占めていた「クロネコメール便」が廃止に追い込まれた。郵便受けに投函(とうかん)するため、再配達の手間がいらない収益性が高い商品だったが、日本郵便以外実質禁止されている「信書」を誤って配達してしまうリスクがあったためだ。

 また、個人宅のポストに投函する「クロネコメイト」約4万7000人の人件費が重くのしかかっていた。「朝と夕は我々も駆り出されていた」(都内のセールスドライバー)。一方、手紙・はがき配達が本業の郵便配達人にとっては”副業“に過ぎない。

 ヤマトはメール便の代わりの新商品として、事前に契約した個人事業主や法人利用に限定した「クロネコDM便」を15年4月から投入した。しかし、「クロネコメール便の廃止による影響をカバーできなかった」(山内雅喜ヤマトHD社長)。

 この半期、ヤマトのDM便は前年同期のメール便に比べ2割減の約7億6000万個(冊)と苦戦。15年4―9月期の営業利益は180億円とリーマン・ショック後最悪となった。

 その目減り分を奪い取ったのが日本郵便だった。佐川急便の「飛脚ゆうメール便」も受託するゆうメールは半期で約16億7000万個(冊)と前年同期比で5・6%伸ばした。

 さらに15年4月にはA5判サイズ・厚さ2センチの専用封筒に本やDVD、衣類などの荷物のほか、手紙も入れられる新信書「スマートレター」(180円)を投入。ヤマトを一気に突き放しにかかった。

意見広告「ユニバーサルサービスという責任。」


 「ユニバーサルサービスという責任。」―。15年12月2日付の全国紙に、ヤマトの主張に対する日本郵便の意見広告が載った。

 手紙やはがきなどの郵便物は電子メールやメール便に押され、01年度をピークに年々減少している。赤字体質の郵便事業がユニバーサルサービスを維持するには「メール便市場を押さえるのが至上命令」(日本郵便幹部)。不毛な消耗戦が続く。

<次のページは、「佐川を買収してヤマトに対抗すべきだ」>

日刊工業新聞2016年2月10日/17日金融
高屋優理
高屋優理 Takaya Yuri 編集局第二産業部 記者
信書の最大の問題は、何が信書で何が信書でないのか、非常にわかりにくいという点です。あいまいな基準の中で、信書を日本郵便以外の事業者を利用して送ってしまうと、私たち一般消費者が郵便法違反で刑罰を受ける可能性があります。ただの民業圧迫として、ヤマトホールディングス固有の経営問題と勘違いされることが多く、あまり大きな問題にならないのですが、社会問題の一つだと思いますし、この話を聞く度に、こんな訳の分からない制度が現代に残っているなんて、タイムマシーンに乗ったような、不思議な気持ちになります。

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