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劇薬マイナス金利、金融機関「一人負け」

特に影響が大きいのはゆうちょ銀行。運用の約半分が国債でリスクとりずらく
 日銀がマイナス金利の導入を決めたことで、市場の混乱が収まらない。決定直後は円安株高が進んだが、効果はすでに剥落、海外経済の不透明感もあり、安全資産を買い求める動きが加速し、長期金利の指標である新発10年物国債の利回りは一時マイナスに落ち込んだ。メガバンク幹部は「マイナス金利を預金者に転嫁することはできない。金融機関が一人負け状態」と嘆く。

 「正直、まずはシステム対応」。銀行関係者は声をそろえる。市場の混乱は収まらないが、16日のマイナス金利導入を控え、銀行の取引システムや事務など実務面の対応が現在の課題だ。
 
 銀行経営への当座預金のマイナス金利の影響は限定的だ。日銀の試算によると、金融機関が日銀に預けるお金のマイナス金利の対象は2月16日の導入当初で10兆円程度。その後も10兆ー30兆円に抑える方針で、日銀の当座預金の総額の1割前後にとどまる。
 

融資先にお願いしても借りてもらえない


 収益への影響は貸出金利低下による利ザヤ圧縮が大きい。金利が低下したところで、資金需要が乏しく、貸出が伸びるわけでない。銀行の預貸率(預金に対する貸出金の比率)は約7割、信金は約5割。「融資先にお願いしても借りてもらえない状態」(地銀関係者)で改善する気配はない。更なる貸出金利競争の泥沼に突入するのは必至だ。とはいえ、預金はマイナスにできず、金融機関は体力をじりじりと奪われる。
 
 中でも、マイナス金利の影響が計り知れないと囁かれるのが、ゆうちょ銀行だ。金融機関各行は預金が重荷になるため「なるべくお金を集めないようにしている状況」(地銀関係者)。
 
 すでに、メガバンク各行や一部地銀は定期預金の利率引き下げなどに動く。ゆうちょ銀も追随するが、各行が預金を締め出しにかかる中で、重くのしかかるのが預入限度額の引き上げの議論だ。
 
 さらに、頭を悩ますのが運用だ。ゆうちょ銀は運用の約半分が国債。完全民営化前で貯金者にしてみれば「暗黙の政府保証」がついている状態。安定志向のマネーの受け皿で、自ずと安全運転が求められる。経済環境が不透明な現状では株や外債などリスクをとった運用はしづらい。
 

リース、設備投資で地銀侵攻


 マイナス金利は銀行の周辺業界にも影を落とす。地銀侵攻の影響を受ける可能性が高いのはリース業界だ。すでに13年4月の日銀の大規模金融緩和による低金利下で、貸出先に苦慮している地銀は、設備投資にリースを利用していた企業に融資を積極化していた。「以前は対象としていなかった中小企業にも地銀が融資をしている」(リース会社社長)。
 
 日銀のマイナス金利が導入され、地銀が低利で融資する動きが強まるのは避けられそうもなく、顧客の奪い合いは激化する。
 
 リース各社は単なるファイナンスでスプレッド(利ざや)競争をするのではなく、リース期間満了後の残価を設定し提供するオペレーティングリースやサービスで差別化することが従来以上に求められそうだ。

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日刊工業新聞2016年2月11日金融面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
当座預金に対するマイナス金利の直接的な影響は限定的ですが、貸出金利の低下などで「収益へのインパクトは経常利益段階で数百億円の減益要因」(市場関係者)との声もあります。ただ、金融機関各社は影響の算出をシュミレーションしながらも「あまりにも外部要因が不安定すぎる」(メガバンク関係者)とお手上げな側面も。嵐が過ぎ去るのを待っているのが本音でしょう。

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