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高度なAI機能をスマホやロボットに搭載できるGPU開発、MITとエヌビディア

これまでに比べ効率10倍、分散処理型のIoTシステムに適用も
高度なAI機能をスマホやロボットに搭載できるGPU開発、MITとエヌビディア

ニューラルネットワークのイメージ(MIT Newsから)

 高度な人工知能(AI)アルゴリズムの演算処理をインターネット経由でサーバーに任せることなく、スマートフォンなどの端末側で行えるようにする新しいグラフィックスプロセッサー(GPU)を米マサチューセッツ工科大学(MIT)などが開発した。現在のスマホに組み込まれ、画像処理用に使われているモバイルGPUに比べ、約10倍の処理効率を持つ。ロボットやドローンに将来こうしたチップが組み込まれれば、ネット通信ができないような場所でも、処理を高速に実行したり、周囲の状況に応じて適切な判断や行動を行う自律制御に役立てられるという。

 研究者らが「アイリス(Eyeriss)」と名付けたこのチップは、MIT電気工学・コンピューター科学部のヴィヴィエンヌ・スゼ(Vivienne Sze)助教らのグループと、半導体メーカーの米エヌビディアなどが共同開発した。

 サンフランシスコで4日まで開かれた半導体の国際学会「国際固体素子回路会議(ISSCC)」で発表し、そのプレゼンテーションではアイリスをニューラルネットワークに適用して画像認識のデモを行った。研究には米国防高等研究計画局(DARPA)が一部出資している。

 このところAI開発の進展が著しいが、その背景にあるのは、人間の脳の情報処理のパターンをモデルにしたニューラルネットワーク(神経回路網)によるディープラーニング(深層学習)手法の高度化。こうした多数の処理ノード(接続点)を持つレイヤー(層)をいくつも重ね合わせたディープラーニングの演算処理には、画像処理用のGPUが使われることが多い。ただ、処理が複雑な場合、GPUもハイパワーのものが要求されるため、バッテリーに制約のあるモバイル機器上での処理は難しかったのだという。

 アイリスで処理を高効率化できたのは、チップ内部で演算処理を行うコア(回路)と、データを格納するメモリーバンク間でのやり取りの頻度を最小限に抑えた構造を取っているため。通常のGPUは多数のコアが大容量かつ単一のメモリーバンクを共有するのに対し、このチップではコアごとに専用のメモリーを持たせてある。また、通常のモバイルGPUだと演算処理を行うコアが200個程度だが、アイリスではそれに近い168個のコアを持つ。

 さらに新型チップでは、それぞれのコアとメモリーの物理的距離が近いだけでなく、隣接するコアが通信することで、メーンメモリーを介さずに、コア同士でデータをシェアしたりもできる。そのため、多くのノードが同じデータを処理したりするニューラルネットワークでの処理に向くという。

 研究者によれば、バッテリー駆動のロボットなどの用途のほか、IoT(モノのインターネット)への展開も想定されるという。自動車や家電製品、土木構造物、製造関連機器、あるいは家畜などにセンサーを取り付け、収集したデータをそのままの形でインターネット経由でサーバーに上げるのではなく、アイリスと高度なAIアルゴリズムを組み込んだネットワーク機器を使えば、重要な判断は現場でリアルタイムに下すという分散処理型のIoTシステムが組める可能性があるという。
日刊工業新聞2016年2月10日ロボット面の記事に加筆
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
 この研究には国防総省関連機関のDARPAが出資していることから、自ら状況を判断して敵を攻撃するドローンなど、いわゆるロボット兵器に使用されるかもしれない、といったセンセーショナルな報道もされている(http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-3436954/Drones-think-like-humans-heading-war-zones-Darpa-chip-uses-neural-networks-act-like-human-brain.html)。  株取引などはともかく、SF映画「ターミネーター」で描かれたように、戦争開始や個別攻撃の判断までコンピューターやロボットに委ねるべきではないと強く思う。機械やコンピューターが発達すればするほど重要性を増すのは、道を誤らないための人間による高度な判断力とその枠組みだろう。

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