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DXなど業務拡大期待、博士人材の活躍機会は中央官庁で広がるか

国家公務員の博士号取得者は政策形成におけるデータ活用(EBPM)やデジタル変革(DX)、国際的な標準化や交渉など、専門を生かした業務拡大が期待されている―。内閣府などはこのような調査結果をまとめた。国家公務員の博士号取得者は研究・教育職での採用が6割強であり、行政職での汎用的能力を評価した事例は少ない。中央官庁で博士人材が活躍するチャンスの拡大を目指す。

内閣府科学技術・イノベーション推進事務局、内閣人事局、文部科学省による初の調査。調査対象である25府省などの博士号取得者は2022年4月時点で2274人で、取得時期は3分の2が入省前だ。2274人のうち行政職は614人。多いのは厚生労働省の研究機関での研究職や、防衛大学校の教育職などだ。

政策などに関する博士号取得者活用の成功例では、「高度道路交通システム(ITS)の解析」「国際的な考えに沿った食品安全行政」「計量モデルの策定や経済分析」などの回答があった。「政策研究の論文投稿で行政官と研究者の立場を両立」「自身の経験を生かした若手研究者の育成政策」も挙げられた。

「新たに活用したい職務」が「ある」としたのは11府省など。「暗号資産に関する適切な規制の立案やモニタリング」「電気電子・情報分野の知識活用によるDX」のほか、「EBPMの業務」「関係国の情勢に関する調査分析」など。先進技術や国際化の業務への期待が示された。

人事院勧告で、博士号取得者の初任給は23年度から引き上げられる。各府省の採用者における博士号取得者数の調査も、23年度に始まる予定だ。

日刊工業新聞 2023年02月02日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
博士人材育成の議論ではしばしば、「企業や政府機関などで活躍するケースを増やそう」との声が上がる。今回の調査でいう行政職で活躍する博士人材がそれだ。メディア人でも博士号所有者はかつてに比べ、近年は少し出てきている(社会人で取得した私もその一人)。それらのケースを通して私が思うのは、「科学的思考や仮説・実証の力は、博士の学びで鍛えられる面がある。ただそれは博士の教育を受けなくても、優秀な人が意識的に努力すれば、ビジネス経験の中で身に付けられる」。一方で、「ある程度の専門性をともなう調査分析や知見を駆使する活動になると、博士の学びで得たものが、そうでない人よりも生きてくる」とも感じる。調査で挙がった国家公務員における評価や期待も、そのあたりといえそうだ。

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