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製造業回帰を狙う米国の「先進製造イニシアチブ」

積層製造、パワエレ、軽量金属材料など全米に45拠点設置へ
製造業回帰を狙う米国の「先進製造イニシアチブ」

米国の先進製造拠点「製造革新機構」

 米オバマ政権は、製造業回帰を重視する政策「先進製造イニシアチブ」を推進している。背景には、今年の一般教書演説でも言及された「中間層の雇用確保」や、製造業(工場)が国外流出すると米国が得意とする研究開発(R&D)・デザイン・サービスも新興国に取られてしまうという危機感がある。製造業の生産高は2010年に米国を抜いて中国が世界1位となった。米国の貿易赤字は、従来得意としてきたハイテク分野にまで波及し始めている。このような脅威がある中、新興国での人件費上昇に伴い、米国の生産コストが相対的に低下したことや、シェールガスなどの安価なエネルギー資源の獲得を好機と捉え、再び米国内に生産を回帰させたいというのが米国政府の思惑だ。

 同イニシアチブの目玉となる施策は全米への先進製造拠点「製造革新機構」の設置である。「ラボに眠っている技術を市場に引っ張り出す」ために、全米に45カ所の拠点をつくる計画だ。第1弾として、12年に付加製造(3Dプリンター)の拠点が産学の共同出資で設置された。各拠点では、対象とする技術の研究開発助成を全国の研究者に対して行う。その成果は一定のルールに基づき、資金を拠出した会員企業と共有される。

 併せて人材育成や装置の共同利用、ベンチャー創出支援策など、技術の市場化を加速するためにさまざまな取り組みがなされている。支援の対象となるのは、将来の製造技術の基幹となり得る技術で、14年はノースカロライナ州にパワーエレクトロニクス、シカゴにデジタル設計製造、デトロイトに軽量金属材料の製造革新機構が設置された。

 米国ではグーグルやアマゾンなどのデータプラットフォーマーや、前回紹介したインダストリアル・インターネットなど、川下の領域では民主導での事業化がさまざまなプレーヤーにより活発に行われている。ここに、政府の後押しにより川上の技術を押さえることで、米国が次世代製造業でリーダーシップを取るのだという意志が感じられる。

科学技術振興機構研究開発戦略センター エキスパート 岡山純子
日刊工業新聞2015年01月29日 モノづくり面
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
最初の製造革新機構であり、3Dプリント技術の研究開発拠点の「NAMII」(現在のAmerica Makes)。オバマ大統領が2013年の一般教書演説で採り上げ、一気に知名度が上がった。ほかの研究開発拠点も含め、デジタル技術を駆使した米国発次世代モノづくりの取り組みに注目したい。

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