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東京農工大がスタートアップに先行投資する狙い

東京農工大がスタートアップに先行投資する狙い

再任決定の記者会見は、千葉学長(左)と相澤議長で行われた

東京農工大学の千葉一裕学長は、2023年4月からの再任決定を受けて会見し、2期目3年間を見据えた抱負を語った。同大がイノベーション拠点となる上で、社会課題解決の公益性と、収益を見込む事業性の両立を重視。大学発スタートアップ(SU)への先行投資を担う、ファンド組成を計画していることを明らかにした。

農学、工学を柱とする東京農工大のトップとして千葉学長は「本学が、社会の負を解消して経済効果向上につなげる」意識が強い。合わせて経営の自律化に向け「1期は外部の民間資金獲得の仕組み整備に全力投球した」と振り返る。畜産業のメタン削減や新たな森林事業が事例だ。

イノベーションエコシステムにおける大学発SUも、「投資に対する責任を大学が負う」ためにファンドを計画する。世界トップレベルの研究力は、その信頼を得る土台と位置付ける。10兆円ファンドの国際卓越研究大学公募には「本学がどうあるべきかという明確な考えと重なれば、申請する」とした。

会見には、相澤益男学長選考・監察会議議長が同席。千葉学長が1期中にムーンショット型農林水産研究開発事業と、次世代放射光施設(ナノテラス)活用会議のリーダーに就いたことを評価した。千葉学長は、どちらも政府資金に頼りがちな点を指摘。「これを切り崩す、民間資金を引き出すアイデアを出したい」と、信念を学内外で貫いていく方針だ。

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日刊工業新聞 2022年11月17日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
研究を基にした社会変革が生まれ続ける、イノベーションのエコシステム構築に向けた千葉学長の熱意は、中央官庁などから高く評価されている。私は「理工系が強い研究大学は、どこもイノベーション重視でしょ?」と、実はあまりピンと来ていなかったのだが、今回の会見で合点がいった。「本学(こそが)社会の負を解消して”経済効果”向上につなげる」といった発言を明確にできる大学トップはそうはいない、と思ったためだ。巨大プロジェクトのナノテラスの問題について触れたのも印象的だった。大学人には、「大学はビジネスの為にあるのではない」という伝統的な価値観を持つ人が少なくない。そのため人文・社会科学系を抱える総合大学はもちろん、理工系大学でも、真理の追究を重視する理学部があれば、このような発言に対して、眉をひそめる教員・研究者に、トップは配慮せざるをえない。その中で信念を持って、明確に語り、突き進みゆくトップは、そうはいない、と評されているのだと理解した。

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