ニュースイッチ

血液の再生医療、血管壁を伸ばす力が鍵

血液の再生医療、血管壁を伸ばす力が鍵

作製したデバイス。下部チャンバーを陰圧にして、中央板状の薄膜を湾曲させ、血管壁モデルとする(日本女子大提供)

日本女子大学理学部の佐藤香枝教授と東京都医学総合研究所の原孝彦幹細胞プロジェクトリーダーらは、胚性幹細胞(ES細胞)の血液細胞分化を助けるフィーダー細胞の機能を増強することに成功した。血管壁を伸ばす力学的な刺激で、フィーダー細胞の培養上澄み液の成分が変化することに注目。伸展で増える遺伝子を使った変異株により、血液細胞数が増えることを確かめた。血液の再生医療を後押しする成果として注目される。

血液細胞は大動脈の特別な内皮細胞が分化してできる。ES細胞の分化誘導を、フィーダー細胞「OP9」が助けており、血液の流れが関わることが知られている。日本女子大らのグループは、血管がカーブを保ったまま拡張する様子をまねて、1・2倍ほど伸展する薄膜デバイスを作製した。マウス骨髄由来の間質細胞OP9を、伸展の負荷をかけながら培養した。得られた上澄みをES細胞由来の細胞の培地に加えると、血液細胞数は1・5―3倍に増えることを明らかにした。

そこで伸展時に転写量が増える遺伝子を探索して特定した。これをプラスミドベクターでOP9に導入し、遺伝子の過剰発現株を作った。過剰発現型OP9で血液細胞の分化誘導を行うと、野生型OP9を使った場合に比べ、血液細胞数は2倍以上になった。

これまで血液細胞数を増やすのに化学刺激を使う研究があった。今回は力の刺激に注目したのが特徴だ。事故や白血病治療などで、造血幹細胞や骨髄の移植用細胞を人工培養して作り出すのに、今回の研究成果の貢献が期待されそうだ。

日刊工業新聞 2022年11月10日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
細胞から有用物質を出させるために、化学物質を添加するのは一般的なやり方だ。対して血管壁を押す力を再現し、これが刺激となって導かれる変化に注目したのはユニークだ。佐藤教授はマイクロ流路の構築などの知見が強みとして持っていたためだ。さらにその操作をした時に転写が増えた遺伝子を探し、その遺伝子を導入した株で促進を確認した。こうなると後は作り出した株が再生医療の要と変わってくる。「力学的な刺激という通常と異なる切り口で入りながら、最終的には切り口の斬新さは見えなくなってしまうのか…」とやや残念に思った。が、大きな科学技術の伸展は、こういった研究が積み重なり、束になって初めて、大きな花を開かせるものなのだと振り返った。

編集部のおすすめ