デンソーなど参入…自動車部品の知見、生かす舞台「農業」にあり
日進工業(愛知県碧南市、長田和徳社長)が、自動車部品事業で培った平準化や改善の知見を農業に応用している。完全子会社のチュプチニカ(北海道由仁町)では飛行ロボット(ドローン)やステアリングに後付けできる「農機自動操舵システム」などを提供し、農作業の省力化・自動化を後押ししている。農業をめぐっては、デンソーや愛知製鋼、フタバ産業など大手企業も新規事業として注力。自動車部品メーカーで農業分野に参入する動きが広がってきた。(名古屋・川口拓洋)
チュプチニカはトラクターや田植え機などに後付け可能な自動操舵(そうだ)システムの提供を2021年秋に始め、これまで数十台を販売した。システムはドローン最大手の中国・DJIが出資するFJダイナミクス製。チュプチニカ事業推進室の中川善教室長は「他社の3分の1程度の価格で競争力がある」と話す。
自動操舵システムはトラクターなどのハンドルを電源モジュールなどに付け替え、全地球測位システム(GPS)や高精度測位が可能なリアルタイムキネマティック(RTK)を活用し、数センチメートルの精度で直線走行を実現する。従来はトラクターの操作と苗などが入ったトレーを積み替える2人が必要だったが「人手不足を受け“ワンオペ”(1人作業体制)のニーズが高まっている」(中川室長)と説明する。
ドローンなどによる遠隔監視も手がける。ドローンに取り付けたセンサーで適切な刈り取り時期を判定するシステムでは、収穫量が3割向上した事例もあるという。酪農向けにはセンサーで餌やりのタイミングを知らせたり、病気の際に獣医師などへ自動で連絡したりするシステムを提供。中川室長は「旅行に行けないといわれた仕事だが平準化はできる」と強調する。
自動車部品の製造と農業はかけ離れた事業のように見えるが、カンやコツに頼っていた作業を平準化する点などで共通項があるようだ。長田社長は「(どちらも)見える化して対策を打ち、生産性を上げることが求められている」と話す。
足元で自動車部品の製造ノウハウや技術を農業に転用する動きが目立っている。デンソーは自動車部品工場で培った生産管理システムや生産技術を導入した大規模農場を運営。生産だけでなく物流や消費まで、既存技術を生かしながら「食」の分野で一気通貫の好循環を生み出す構えだ。
愛知製鋼は不良土壌での農業を可能にする肥料を開発。フタバ産業は暖房機などから発生する二酸化炭素(CO2)を貯留し、日中にハウスに供給して光合成に再利用できる装置「アグリーフ」などを手がけている。
農林水産省によれば15歳以上の世帯員のうち、仕事として主に自営農業に従事する基幹的農業従事者数は20年で136万人。担い手の減少や高齢化の進行などで1960年のおよそ10分の1にまで縮小した。食糧供給基盤の維持に向け、農業の高度化・省力化が求められている。