東京農工大はなぜ若手・女性研究者支援で定評を得ているのか
長年、女性研究者支援の政府事業で切れ目なく採択を勝ち取り、他大学をリードしてきたのが東京農工大学だ。教員の女性比率を2008年度と21年度で比べると、農学系が4・1%から15%へ、工学系が6・6%から11%へと伸びている。さらに新型コロナウイルス感染症を機とした全教職員の意識変化が、千葉一裕学長のリーダーシップと相まって、もう一段上の働き方改革が進み始めた。(編集委員・山本佳世子)
東京農工大の女性研究者向け新支援策で、他大学からも注目を集めたのは「キャリアデザイン制度」だ。農学、工学分野それぞれにおける定年制雇用で、5年目に上位職資格審査がある。つまり准教授で採用されると、5年後の教授昇格のチャンスがセットになっている。女性の上位職を増やすため、学長裁量経費で他大学にない施策を立案した。この10月に、最初の採用者が着任の予定だ。

すでに動いている准教授向けの独自の「キャリアチャレンジ制度」も、高い成果を出せば5年程度で教授が確定する。全国の若手研究者の関心を引く仕組みだが、この中で女性優先枠を設定し、女性の負担が大きい出産・育児のライフイベント期へ配慮する。
「任期付き雇用では研究か子どもか、と迫られてしまう。本学は任期なし(の定年制)での雇用を用意することで、優秀な人を発掘していく」と天竺桂(たぶのき)弘子副学長・女性未来育成機構長は説明する。理工農系の女性研究者は今、全国の大学でひっぱりだこ。それだけに一時的に引きつけるだけでなく、他大学に引き抜かれない継続的な支援を意識している。
新型コロナ下の21年9月に行われた同大の働き方改革の教職員アンケート。回収率は予想に反し全体で5割弱、教員に限ると8割弱と高い数値になった。従来は関心の低かった層も、意識が新型コロナで大きく変わったためだとみられる。
この調査により教職員の約3割が育児期に、2割が介護期にあることが判明した。介護期の対応は同大に限らず今後の課題といえる。また「これまでにない分量の自由記述が寄せられた。『こうしてはどうか』という前向きの提案が多かった」と天竺桂機構長は喜ぶ。
これにより改善策が今、次々と動き出している。例えばライフイベント時の研究者の負担を減らす「研究支援員制度」は、支援対象を4月から男性にも拡大。申し込み18人中、男性が8人と歓迎されたことが見て取れる。
さらに踏み込んだ形として、総務・経営企画部の東山琢磨人事課長は「現在、フルリモート勤務の仕組みを検討している」と紹介する。配偶者の転勤に伴い、米国から常勤のフルリモートに取り組む例が出ているという。
千葉学長は21年度に、グループごとも含めて全事務職員と面談を行った。現在は教員全員との実施を掲げている。中小規模大学の弱みを強みに変え、全学で改革を進める土壌が醸成されている。
