早稲田大VCが設立した1号ファンドのユニークさ

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早稲田大学ベンチャーズ(WUV、東京都新宿区、山本哲也・太田裕朗共同代表)は1号ファンドを設立し、約56億6000万円で1次募集を完了した。早大発に限らず他大学や海外案件なども見据え、世界に通用する15社程度のディープテック(大規模研究開発型)系スタートアップの創出を目指す(編集委員・山本佳世子)

1次募集の出資者には、産業革新投資機構(JIC)、大和証券グループ、みずほ銀行、みずほ証券、三井住友銀行が名を連ねた。スタートアップの登記から創業時の出資、役員派遣などで「我々の手で会社にしていく」と太田代表は力を込める。

WUVは2022年4月に設立した。資本金は1000万円。早大が2割を持つが、他大学の技術案件も支援対象となる。ファンド規模は最大100億円。生命科学、情報科学、物理科学(材料、ロボットなど工学)を対象分野とする。

東京女子医科大学や日本医科大学などとの医工連携案件も視野に入れるほか、早大の特色ともいえる人文・社会科学系やスポーツ科学なども“チャレンジ領域”に位置付ける。海外や他大学案件も2―3割程度と積極的にアプローチし、「技術を早大に取り込んで発展させる“早稲田着”としたい。早稲田発スタートアップとともにエコシステムを確立する」(山本代表)。

支援先スタートアップの“出口”としてM&A(合併・買収)を重視するのがWUVの特徴だ。短期にグローバル成長を狙うためだ。経済産業省の大学発ベンチャー(VB)実態調査によると、出口戦略として「新規株式公開(IPO)したい」と回答した企業が4割弱と最多。一方で半数以上がIPOまでに10年以上を要しているとされる。

WUVは「大学の技術シーズがグローバルメジャーに取り込まれ、世界に普及する」(太田代表)姿を描き、それを数年単位で実現させる構えだ。

山本代表は英オックスフォード大学の物理学科卒で三井物産、東京大学エッジキャピタルでベンチャーキャピタル(VC)投資家の腕を磨いた。一方、太田代表はマッキンゼーアンドカンパニーを経て、飛行ロボット(ドローン)上場スタートアップのACSLをトップとして率いた。山本代表は「多数に分散投資するのではなく、仏像の木彫りのように魂を込めて全社を成功させたい」と意気込みを見せる。

早大関連のVCは、これまでウエルインベストメント(東京都新宿区)など2社ある。だが、リスクマネー供給が十分とは言い難い。私立大発のスタートアップの数では慶応義塾大学、東京理科大学に水をあけられつつある。21年度に慶大が175社と5位(前年度10位)に躍進したのに対し、早大は100社で11位(同10位)と順位を落とした。

 WUVは会社設立前の事業計画策定から経営チームの組成だけでなく、スタートアップの共同創業者として最初の活動資金提供を行う創業投資にも力を入れる。まずは1号ファンドの投資先に注目が集まる。

日刊工業新聞2022年8月24日

COMMENT

山本佳世子
編集局科学技術部
論説委員兼編集委員

VCやVBのリーダーは近年、技術も経営も、企業も大学も得意とするハイレベルの人材が増えている。優れた経歴と実績のある人が火付け役になることは、失敗を嫌がる日本社会・大組織において特に効果的だと思う。早大VCの両代表はその意味で適任だ。紙面で引用したコメントも「仏像の木彫りのように魂を込めて、全社を成功させたい」「大学の技術シーズがグローバルメジャーに取り込まれ、世界に普及する形を狙う」「早稲田発だけでなく早稲田着もあわせて発展させる」など、いずれもユニークで、引きつけられた。

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