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ライフサイクルアセスメントの共同研究、企業の希望が大学に殺到する理由

東京都市大学環境学部の伊坪徳宏教授は産学共同研究で、多様なリサイクル製品の環境負荷評価の成果を出している。高機種のエアコン導入で、途上国の経済損失をどれだけ抑えられるか。おむつや紙を再生する新手法は、通常法と比べて二酸化炭素(CO2)削減効果がどれくらい大きいか。定量的なエビデンスは企業、自治体、政府・国際機関などの環境対応を後押しするものとして注目される。

東京都市大とダイキン工業は途上国の温暖化対策として、インドネシアのエアコン設置で研究した。現地で一般的な廉価品と、省エネでCO2排出の少ないインバーター搭載の高価格品で、要素別のコスト・ベネフィット分析を行った。

その結果、廉価品による経済損失は現地の火力発電による大気汚染によるものが大きかった。これに冷却機能が不十分なための睡眠障害、熱交換器の銅など資源消費、温暖化効果の高い冷媒使用による気候変動などがある。全体で廉価品の経済損失は、高価格品の2・5倍になった。

セイコーエプソンとは使用済みコピー紙をほぐし、色素を除いて結合剤を加えて再生紙とする乾式オフィス製紙機を取り上げた。通常の再生紙はバージンパルプを3割程度使い、水の消費が大量で、オフィスからリサイクル工場へ運ぶ輸送工程がある。一方、製紙機では結合材使用の負荷はあるが、水を使わず輸送が不要だ。同じ再生紙量におけるCO2排出量は、通常方式の約7割となった。

高齢化で増える使用済みおむつの回収で組むのはユニ・チャームだ。焼却施設がなく埋立処分場を圧迫する鹿児島県志布志市の実証施設で、洗浄して除いた汚物、吸水性ポリマー、パルプを分別・処理する。各工程で水やエネルギーを使っても、焼却のCO2発生、埋立のメタンやCO2の発生と比べ、温暖化抑制の効果が大きいと確かめた。

環境・エネルギー分野は多数の要素が絡み、LCA(ライフサイクルアセスメント)の科学的理論に基づく分析が重要だ。成果は企業のサステナビリティーリポートなどに使われ、地球環境保全の国際的な議論にも貢献しそうだ。

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日刊工業新聞2022年7月21日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
環境・エネルギー分野は多様な要素が絡んでいる。通常の科学技術による研究は、特定の条件下で よりよい成果を出す形が現状で、切り口を替えると疑問符が付くケースもある。対してLCAの研究は原料の育成・製造から回収・廃棄まで、トータルの社会活動をみて、どの技術や製品が環境負荷を下げる点で優れているのかを明らかにする。企業は株主向けIRや、自治体や欧州系企業などハードルの高い顧客向けに、LCAの査読論文をエビデンスとして示し、活動する。そのため伊坪先生のような大学の研究に注目しているのだ。ちなみに伊坪先生は東京都市大の大学院環境情報学研究科長でもあり、環境・エネルギーのデジタル革新(DX)人材育成プロジェクトも率いている。

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