百戦錬磨のJST新理事長が明かす、研究支援の専門人材「URA」に手を差し伸べる可能性

キャリア混在、刺激し合う

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4月に就任した科学技術振興機構(JST)の橋本和仁理事長は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の議員を10年近く務めた。大学10兆円ファンドの新施策で、政治家を説得して回るなど百戦錬磨だ。今度は多事業の実施主体として全国の大学・研究者と直接、関わる組織のトップだ。立ち位置の変化と、変わらぬ思いを聞いた。

―国際卓越研究大学や博士学生を支援する10兆円ファンドで、JSTの関わりを不安に思う声が聞こえてきますが。

「JSTはファンドの運用益の配分がミッションだ。ファンド運用自体は、科学技術に親しみのある運用プロフェッショナル約20人からなる専門部隊が行う。運用・監視委員会も作った。我々はこの部分については素人で、完全に別世界となっている」

「一方、JSTの仕事は近年、大幅に増えたのに職員数はほぼ変わっていない。年3000億円といわれる運用益のサポートをどうやるのか。年俸制での新たな人材雇用などの仕組みが必要だ」

―若手研究者向け「創発的研究支援事業」が現場の心をつかんでいます。

「それまで欠けていた『長期、挑戦的、ボトムアップ、40歳前後』に焦点を当てた事業だ。ポイントは研究者の声をしっかり聞いた上で、他事業の実態のエビデンスに基づいて設計したことだ。それにより不採択者や他の年齢層にも評判のよい仕組みになった。採択者以外からは悪評の、内閣府の別事業を反省材料にした」

―事業が多種多様になりすぎた、と再編を打ち出しました。

「JSTの運営費交付金約1000億円のうち、8割が研究資金配分のファンディングでこれが本務だ。ボトムアップの戦略的創造研究と、トップダウンの社会連携型がある。近年の科学技術予算は、大学などの交付金減をとりかえすべく、社会ニーズに基づく競争的資金の事業新設を重ねてきた」

「そのため積み木状態で、提案書を作成する申請側も審査側も負担が大きい。これをできるだけシンプルな形にしたい。走っている全事業が終了する10年後に向けて、研究者を交えた場で検討していく」

―研究支援の専門人材、リサーチアドミニストレーター(URA)のキャリア後押しを思案しています。

「研究者が出身研究室で教授になるのは、20年に1人程度。そのため他機関へ出て評価を高めながら上位職を目指すのが基本だ。任期制が大半のURAも同様の流動性が好ましい。JSTがファンド運用益の事務経費を使い、大学改革を担うURAを年俸制で雇用するなどできないか。プログラムマネジャーやプログラムオフィサーとも相性がよい。さまざまなキャリアが混在し、刺激し合う構造にすべきだ」

【略歴】はしもと・かずひと 80年(昭55)東大院修士修了、同年分子科学研究所入所。97年東大教授、04年先端科学技術研究センター所長。16年物材機構理事長。22年4月から現職。北海道出身、66歳。

【記者の目/前例覆す力、大胆に発揮】
前職の物質・材料研究機構理事長の時には、任期1年を残して辞める表明をしていた。次期中期計画を策定すべきは、次の理事長だと考えたからだ。信念に基づいて前例を覆し、その意図を社会に説明する能力が、全国の大学と向き合うJSTでより大胆に発揮されるだろう。(編集委員・山本佳世子)

日刊工業新聞 2022年6月1日

COMMENT

山本佳世子
編集局科学技術部
論説委員兼編集委員

10兆円大学ファンドと国際卓越研究大学の議論が多数、なされる中で、URA雇用の具体的アイデアを耳にしたのは、橋本JST理事長の発言が私は初めてだ。研究力強化におけるURAの重要性は再三、強調されており、関係者の共通認識ではある。しかしその中で、URA雇用費を手当している文科省の「研究大学強化促進事業」が今年度に終了する。10年間の長期支援で、自助努力による正規雇用への切り替えなど促してきた文科省側は、「単なる継続の新事業は、ない」と明言しており、関係者は落ち着かない。私の記憶では、かつて特任教授という仕組みを初めて聞いたのも、当時の橋本東大先端研所長への取材時だった。その後、これだけ一般的な仕組みとして普及したことを考えると、URAのキャリア構築に向けたJSTの橋本理事長アイデアは、それなりに期待できるのではないか。

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