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ベールを脱いだ謎のEVベンチャー、米ファラデー・フューチャー

未来デザインのコンセプト車CESで公開、前評判通り「テスラキラー」となるか
ベールを脱いだ謎のEVベンチャー、米ファラデー・フューチャー

FFZERO1コンセプトの外観(同社のウェブサイトから)

 謎の電気自動車(EV)ベンチャーがついにベールを脱いだ−−。米ロサンゼルスを本拠地とし、わずか18カ月前に設立されたばかりのファラデー・フューチャー(FF)は4日、世界最大の家電見本市「CES 2016」の開幕を前に、ラスベガスで同社初のEVコンセプト車「FFZERO1コンセプト」を発表した。

 あくまでコンセプトではあるものの、4つの駆動モーターによる1000馬力の出力、停止状態から時速60マイル(96km)までの加速が3秒以内、最高時速は200マイル(320km)以上、という桁違いの走行性能を想定。近未来的なデザインを含め、新世代の高性能EVスポーツカーというイメージを強く打ち出している。

 「コンセプトカーではなく、新しい車のコンセプト」と同社デザイン部門トップのリチャード・キム氏が発表会で強調したように、デザインはかなり型破り。例えば、車体中央に配した一人乗りの運転席を湾曲した透明なガラスが覆い、バットマンの乗る「バットカー」を思わせる、ごつごつした力強い外観。運転席をはじめとして炭素繊維や軽量複合素材もふんだんに採用している。

 コンセプト車と実際の量産車は、デザインや仕様が違ってくると思われるが、同社は最大10億ドル(約1200億円)もの資金を投じ、ラスベガス北部への工場建設計画を昨年11月に公表。今回の発表会では、数週間後に着工し、数年後に量産にこぎ着ける方針を明らかにした。

 ファラデーはもともと、中国の起業家で、オンラインビデオサービス「Letv」の創業者兼CEOを務めるジア・ユエティン(Jia Yueting)氏らが2014年に創業。ウェブサイトによれば、400人以上の社員を抱え、研究開発、製造、人事、調達担当の副社長には米テスラモーターズ出身者がずらりと並ぶ。

 さらにBMW、フォード、GMといった大手自動車メーカーや、テスラのイーロン・マスクCEOが経営する宇宙ベンチャーのスペースXからの移籍組もいる。前出のキム氏もBMW時代に「i3」や「i8コンセプト」といった話題の車種を手がけたトップデザイナーだ。

 ファラデーをめぐっては、テスラと同じように高級EVの開発を手がけ、人材も引き抜いていることから、米メディアの間では「テスラキラー」との呼び名もある。さらに、ステルスモードで活動し、情報もあまり公開していないことから、ひそかにEV開発を進めているとされる米アップルのフロント企業ではないか、といったうわさまで流れていた。

 FFZERO1コンセプトに話を戻すと、内装にも工夫を凝らしている。ハンドルの中央にはスマートフォンをドッキングし、さまざまな走行情報をビジュアルに表示したり、車の状況をリアルタイムに解析したりできる。ヘッドアップディスプレーではAR(拡張現実)を採り入れ、道路情報などさまざまな情報を表示する。さらに、シートは運転者の頭と首をしっかり固定できる仕組みで、ヘルメットから水と酸素をドライバーに供給可能。インストゥルメントパネルにはドライバーのバイタルデータまで表示する。

 車体には「エアロ・トンネル」という機構も設けた。前から入った空気が後ろにそのまま抜ける構造で、空気抵抗を減らすとともに、バッテリーの冷却に役立てられるという。

 さらに、量産を見越した場合、興味深いのが「バリアブル・プラットフォーム・アーキテクチャー(VPA)」と名付けたモジュラー型のシャシー機構。前後のホイールベースや、車高が変更しやすい設計になっていて、車種やその大きさ、駆動システム、バッテリーパックの数などに応じて自在にカスタマイズできる。製造コストの削減や製造工程の合理化に役立つものと思われる。

日刊工業新聞2016年1月6日付 自動車面の記事に加筆
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
「テスラ」と「ファラデー」。いずれも電気関係の発明や発見にかかわる偉人の名前だ。これだけみても、ファラデー・フューチャーがテスラモーターズをいかにライバル視しているかがうかがえる。4日の発表会でも「テスラは2003年に設立後、量産して市場に入るまで9年かかった。われわれは数年でやり遂げる」と対抗心をあらわにしていた。高級EV同士、まさに火花を散らす戦いとなるか。

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