ニュースイッチ

「耐熱性微生物」でエタノール生産、山口大に熱視線のワケ

通常より少し高い40度C程度で活動する「耐熱性微生物」を使ったエタノール生産で、山口大学中高温微生物研究センターが注目されている。熱に強い微生物なら水冷の設備・運転コストが不要で、食品工場では廃棄物を原料にした再生可能エネルギーで工場プラントを稼働、脱炭素が進められると期待する。日立製作所や日清食品ホールディングスなどとのプロジェクトが、環境省の事業に採択されて進み始めた。(編集委員・山本佳世子)

環境省のプロジェクトでは工場のオンサイト発電システムを狙う。山口大が耐熱性微生物によるエタノール生産と、濃縮の膜分離プロセスを開発する。このバイオ燃料由来の水素で発電する固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、九州大学とエフ・シー・シーが担当する。日清食品が製麺工場の廃棄物提供とエネルギー利用を検証し、日立が全体のシステム最適化を図るスキームだ。

日本が得意とするアルコール発酵は発熱反応で、微生物が快適な20―30度Cを保つため、水冷のジャケット付き容器・ユニットの設備や運転のコストがかかる。しかし40―45度Cを好む耐熱性微生物なら冷却が不要だ。さらに同大は生成エタノールの濃縮に工学部の技術を利用する。同大の膜分離法は一般的な蒸留法に比べ、濃縮エネルギーを抑えられることを確認している。

同センターは約20年の歴史の中で、「タイ・カセサート大学をはじめ東南アジア諸国連合(ASEAN)との共同研究などで分離・保有した、耐熱性微生物株のカルチャーコレクションがある」と山田守センター長は強みを強調する。

これにより日立とは、旭酒造(山口県岩国市)の廃棄物、酒かすを使ったエタノール発酵・発電にも取り組んでいる。

ASEANでの実用化の検討も進む。複数の工場をへき地に抱えるある日本企業は、地産地消エネルギーと脱炭素に期待する。日本の商社は同大の微生物コレクションに関心があるという。今後は気候変動に対する耐熱性遺伝子の研究などにも、社会の関心が寄せられそうだ。

日刊工業新聞2021年12月23日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
長期にわたる大学の研究において、特殊な菌株などは財産の一つだ。山口大ではASEANの大学との共同研究や人材交流に続く形で、耐熱生微生物のカルチャーコレクションを抱え、それが別の国内の大学・企業との共同研究を生み出すツールになっている。このような個性は、小規模大学や地方大学であってもその種が比較的、広くに見られるだろう。問題は往々にして研究者ベースの個別活動で終わってしまうことだろうか。センターなど組織的な活動を通して、他大学と差別化する”武器”に磨き上げていく、大学トップらの戦略が効いてくるに違いない。

編集部のおすすめ