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アップルが自前でディスプレー開発か、台湾に秘密の研究所

クアルコムのMEMSディスプレー技術まで買収との観測も
アップルが自前でディスプレー開発か、台湾に秘密の研究所

台湾に開設したアップルの研究所(Maurice Tsai/Bloomberg)

 ブルームバーグが関係者の話として、アップルが今年に入って台湾に秘密の研究所を開設し、ディスプレーの研究開発に乗り出したと報道した。もともとはクアルコムが新型ディスプレーを開発していた拠点で、少なくとも50人のエンジニアが、iPhone、iPad、マッキントッシュ向けに、現在より薄く、軽く、明るく、消費電力の低い先端液晶ディスプレーを研究しているという。

 エンジニアは台湾のディスプレーメーカーであるAUオプトロニクスや、建物の元の持ち主のクアルコムなどから雇い入れているという。アップルの広報担当者はコメントを辞退した。

 関係者によれば、この事務所は台北の中心から南西約50kmの場所に位置する桃園市の龍潭サイエンスパークにある白いタイルで覆われたビル。会社名を記した看板がなく、大きなロゴを掲げた周囲のTSMCやAUオプトロニクスの工場と好対照だという。それでも、建物内部の受付の壁にはアップルのロゴがあるほか、iMacの訪問者登録の画面もアップル独自のもので、この建物がアップルのオフィスだということを、わずかにうかがわせているとしている。

 さらに、龍潭サイエンスパークを管理する新竹サイエンスパークの運営事務所の記録によれば、アップルがこの工場に移転してきたのは今年4月。その前までは2008年からクアルコム・パネル・マニュファクチャリングが入居していた。

 ブルームバーグは推測ながら、アップルがディスプレー技術や生産プロセスを自社開発することで、サムスン電子やLGディスプレイ、シャープ、ジャパンディスプレイへの依存度を引き下げ、代わりにAUオプトロニクスやイノラックスといった台湾の小規模なディスプレーメーカーへの製造委託が可能になるとしている。

 一方、アップル情報サイトのアップルインサイダーなどは、研究所の建物や設備だけではなく、ここを拠点に開発が行われていた干渉モジュラーディスプレー(IMOD)の「ミラソル(Mirasol)」の技術も含め、アップルがクアルコムから買収した可能性も指摘する。クアルコムからの人材採用も、こうした観測を裏付ける材料と言える。

 IMODは鮮やかな青色を発するモルフォ蝶の羽根にヒントを得た表示方式で光の干渉を利用する。バックライトが不要かつ省エネ、さらに直射日光の下でも見やすいのが特徴。非常に小さい鏡のような部品を大量に敷き詰め、各部品の深さ位置で色調が変わる現象を使ったMEMS(微小電気機械システム)ディスプレーだ。

 クアルコムはIMODの発明者であるマーク・マイルズが創業したイリダイム(Iridigm)を2004年に買収し、実用化を推進。その後、クアルコムはフルカラーのミラソルを採用した初の自社開発スマートウォッチ「トック(Toq)」を2013年12月に発売したものの、商品としては失敗に終わっている。

(※追加します)
 さらに台湾デジタイムズが伝えたところによると、アップルはこの研究所でマイクロLEDディスプレーを開発するという。マイクロLEDディスプレーは通常の液晶ディスプレーと違い、バックライトが不要で、より薄くでき、省エネで、高精細かつ色域を改善できるメリットがある。

 ただ、この方式は薄膜トランジスタ(TFT)製造プロセスでの歩留まりが良くないため、量産が難しいとされる。アップルがマイクロLEDを手がけるのは初めてではなく、シリコンバレーのサンタクララに本拠を置き、マイクロLEDディスプレーを開発するベンチャー企業のラックスビュー・テクノロジー(LuxVue Technology)を2014年に買収している。
ニュースイッチオリジナル
藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
シャープは2014年9月、クアルコムと共同開発のMEMS-IGZOを2017年に量産出荷すると発表しているが、アップルがミラソルを買収していたら、この計画自体どうなるのだろう? さらに、先日報道された2018年発売のiPhoneに有機ELディスプレー採用という話とも、どう絡んでくるのか(あるいは全く絡まないのか)興味深いところだ。

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