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音波使って物体浮遊、空中でビーズの動き自由に制御

薬剤カプセル送達や微細手術など医療分野への応用想定
音波使って物体浮遊、空中でビーズの動き自由に制御

ビーズを包み込むようにしてつかむ音響ホログラムのイメージ(Asier Marzo, Bruce Drinkwater and Sriram Subramanian©2015)

 SFテレビドラマ『スタートレック』に出てくる、離れた場所から宇宙船などの物体を捕らえて引き寄せる「トラクター・ビーム」のような技術が登場――。ただし、物体をつかむのはレーザーや電磁気でも、空気の圧力でもない。「音波」を使ってビーズのように小さな物体を空中に持ち上げ、空中に浮いたまま自由に動かせる。このような技術は世界で初めてという。

 この「音響ホログラム」という技術を開発したのは、英国のブリストル大学とサセックス大学、および両大学の教授が設立した大学発ベンチャーのウルトラハプティクス(Ultrahaptics)。

 仕組みはこうだ。64個の小さなスピーカーを8×8の正方形に並べ、そこから人間の耳には聞こえない周波数40キロヘルツの超音波を大強度で発振。ポリスチレンでできた最大直径4mmの球形ビーズを、音波が形作る形状の違った3種類の「力の場」でピンセットで挟むようにして包み込み、空中に持ち上げる。しかも、力の場でビーズがしっかり空中に固定されているため、スピーカーを斜めや逆さまにしても、ビーズが落ちることがない。2個のビーズを浮かせて、それぞれ別の動きをさせることもできる。

 これまでレーザーを使った似たような技術はあったが、マイクロメートル(マイクロは100万分の1)単位の小さい物質しか持ち上げられず、しかも大きなエネルギーが必要だったという。それに比べると、音響ホログラムの消費電力は9ワットと非常に小さい。

 応用分野としては、壊れやすい物体を移動して組み立てる製造工程や、医療分野が想定される。薬剤カプセルを体内の目的の部位に届けたり、超小型のメスや手術装置に応用すれば、皮膚をあまり切開することなく、体内の病変部位を手術で除去したり治療したりする手法が考えられるとしている。

 研究成果は10月27日発行のオンライン論文誌ネイチャーコミュニケーションズに掲載された。


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藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
以前読んだミチオ・カク先生の『Physics of the Future』(『2100年の科学ライフ』)には、磁気浮上式リニアモーターカーや、空中を飛ぶクルマのような浮上技術が有望な未来技術になると書いてあった。摩擦によるエネルギーロスを減らし、高速で移動できるためだ。音波だとさすがに鉄道車両やクルマを浮上させるのは難しいが、いろいろな使い道が出てくるかもしれない。

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