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本格化する文科省の「共創の場形成支援」。産学官拠点の自立なるか

文部科学省の産学官連携事業をまとめた「共創の場形成支援プログラム(COI―NEXT)」が本格化してきた。2021年度に新設した地域連携型の分野は10月に採択される予定。「センター・オブ・イノベーション(COI)」の成功ポイントを引き継ぎつつ、文科省は共創の場を土台に各産学官共創拠点が資金とイノベーションを連動させる自立化を求めている。これは大学改革にもみられる大きな流れとして注目される。(編集委員・山本佳世子)

競争激戦予想

COI―NEXTの目的は“自立的・持続的な”産学官の共創拠点の形成だ。大型事業である「COI」が21年度に終了するのに先立ち、20年度に始まった。初年度は環境問題など世界規模の課題解決に向けた「共創分野」が柱だった。

21年度の新規分野は地方大学、自治体などが地域社会課題を解決する「地域共創分野」だ。地域・社会連携で経験を積んできた大学などから「約120件の相談があった」(文科省産業連携・地域支援課)。採択までに激戦が予想されるが「この事業は毎年、追加公募があるので安心してほしい」(同)としている。

研発法人も参加

COIから引き継ぐコンセプトは、未来ビジョンに基づくバックキャスト型の産学官連携と、アドバイザリーボードによる強い支援だ。COIではアドバイザーらが1拠点当たり年6回程度と頻繁に面談し、強く関わったことで多数の実用化を実現した。共創の場には「リサーチコンプレックス」「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)」「地域イノベーション・エコシステム」などの文科省の各事業が終了後に合流する。大学だけでなく、国立研究開発法人が入る点も目を引く。

大学改革と共通

これまで大学は多様な新事業の公募条件に合わせたプラン作成に右往左往してきた。一方、COIでは実用化数は多かったものの、国の支援がなくても自然にイノベーション創出が生まれてくるような新たなシステムを構築するという点では十分でなかった。そこで今後は共創の場で一本化し、自ら外部資金の獲得とイノベーション創出の連動に励む必要がある。そのため事業予算は、本格型でも年間2億―3億円と少なく抑えられている。

これは他の大学改革に共通する点だ。経済支援なしで大学債の発行や事業子会社設立などで活動範囲を広げる指定国立大学制度も、「地域連携プラットフォーム」や「地域の中核となる大学振興パッケージ」も同様だ。政府・文科省が口も手も出す支援から、自律・自立を促す支援に変わってきている。

日刊工業新聞2021年7月26日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
取材を進める中で時に、「どうやらこの流れは、あの件と同じ判断でなされているのだな。ということは、この先も…」と予想されるケースが、時に出てくる。それは取材先とのやりとりの中で、先方の発言から「そうなのか!」と気づく(教えてもらう形)こともあれば、記者が自分で「社会情勢を考えると、こうなるに違いない」と仮説を立てることもある。いずれにせよ、こういった変化の兆しをキャッチして読者に伝えることは、経験豊富な記者こそ意識すべきものだと思う。今回のケースでいうと、「事業最終年度の夏の概算で後継事業の要求を組み込むのではなく、最終年度の一年前に行う」「終了する事業の多くに後継事業があったが、今後は統合・大くくり化が進む(大学側の自由度は増す)」「事業終了後の自立・自律化が実現していない問題を解決するため、予算を抑えた(指定国立大のように予算のない)施策に変わる」「広く応募を募るテーマと、政策的に重要な絞ったテーマが出てくる(COI-NEXTでは20年度の募 集でのみ、それがあった)といったあたりだろうか…。

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