【ディープテックを追え】来る「大個人データ活用時代」に備える!健康データを安全利用

#9 ミルウス

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日常生活のデータを収集し、分析することで日々の健康や病気の可能性を探るサービスが各社で構想されている。実際、政府は2021年度後半から情報銀行で健康データを扱えるようにする方針を打ち出している。

そんな中、懸念されるのが情報の管理だ。近年急速に普及したクラウドサービスはデータ活用の利便性を向上させることに寄与したが、同時にデータの流出や不正利用の危険性も高めている。そんな中、にわかに注目されるのが個人データを自分自身が保管し、管理するパーソナル・データ・ストレージ(PDS)の概念だ。北海道大学発のベンチャーであるミルウス(北海道札幌市)は道内の市町村でPDSを活用した健康サービスを実証するなど、来る「大個人データ活用時代」に向けて新ビジネスの種をまいている。

パーソナル・データ・ストレージ(PDS):個人の行動履歴や生活情報を自ら保管し、その活用方法を自ら決める仕組みのこと。安全なストレージにデータを保存すると共に、暗号化などを施し様々な場面で使うことを想定する。

規制を先取り

同社が提供するPDSは「ミパルカード」というICカードで管理するものだ。まず、個人が所有するスマートフォンを使い、生活情報(ライフログ)を取得。その際にミパルカードでデータを暗号化し、電子署名も行う。これらのライフログは自動でクラウドなどには送信されず、誰にデータを提供するのかを個人が選ぶことができる。つまり「今、どこの誰が何の目的で自分のデータを使っている」ということを正確に把握でき、自らの意思で運用できるというわけだ。

スマートフォンで取得したデータをミパルカードを使い、暗号化する

EUが18年に施行した一般データ保護規則(GDPR)や22年に施行予定の改正個人情報保護法でも、「データを個人が管理する」という概念が取り入れられている。同社のPDSはまさにこの流れを先取りしたようなサービスだ。

これら集めたデータをプラットフォーム「ミパルプラットフォーム」上で管理し、自治体などが健康支援に活用する。将来的には企業や研究機関向けに暗号化したデータを匿名化し、ビッグデータとしての利用を計画する。その際、データを提供した個人がどの企業や団体にデータを提供するか選ぶことができる。また、データの閲覧はミパルカードを所有するユーザーに限られる。

南社長(取材はオンラインで行った。写真は同社提供)

なお、不正にデータが改ざんされた場合、電子署名が消える仕組みであるため、データの活用側は不正の有無を署名で判断できる。個人データの活用が進めば、データ自体の信頼性の問題も出てくる。南重信社長は「このサービスであれば、データ流出を抑制しつつ、信頼性も担保できる」と自信を口にする。すでにこれら一連の技術について日米で特許を取得している。

健康指導に応用

このPDSを用いて想定するのが、自治体を包括するリモートでの健康指導サービスだ。20年には北海道東神楽町、増毛町、札幌市厚別町、札幌市内の企業を対象に、このプラットフォームを使った健康支援実証を行った。本実証では、個人の食事や歩行などの活動量、睡眠時間などを1週間から1カ月間計測。データを基に栄養士らが利用者に助言した。南社長は「ライフログデータを提供することに利用者が抵抗感を示すかと思っていたが、満足度は良好だった」と話す。

同社のサービスを使って行った健康指導サービス

過疎化が進む地域ではこれまで通りの福祉サービスを提供できなくなる可能性が高い。特に健康指導はリモートでの対応が必須となる。同社はこの一連のサービスを21年度中に事業化し、自治体などへの導入を目指す。また、企業向けにテレワークが広がる中、従業員の健康状態を把握したいニーズも取り込む考えだ。予定価格は1カ月30IDで20万円から。

かつて南社長は東芝に在籍していた際、ウエアラブルセンサーの開発を手がけ、北大特任教授の時は個人データの活用について研究してきた。その経験から「センサーはどんどん進化し、人間の感情なども読み取れるようになる時代が来る」と推測する。だからこそ、取得されたデータがいかに使われるのかに目を向ける必要がある。南社長自身、「セキュリティーの分野は地味だ」と口にするが、高度な情報社会にとって同社の存在は必要不可欠な“黒子”だ。

この連載では、「ディープテック」と呼ばれる先端テクノロジーの事業化を目指す企業を掲載します。
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COMMENT

小林健人
デジタルメディア局DX編集部
記者

個人データを使い、オンラインサービスを展開する構想は長きにわたってありました。コロナ禍によって必要性も相まって、一段と進展しました。人口減少局面を鑑みると、この流れは不可逆的なものと言えます。利便性を向上させながら、セキュリティー性を担保するためには今回のように一部をオフラインの管理下に置く「切り分け」も必要かもしれません。

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