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大学のキャリア教育、国立大も積極的に関与すべき理由

2022年春に卒業する学生の就職・採用活動が本格化している。オンライン面接やジョブ型採用など手法は変化するが、低学年からの継続的なキャリア教育が学生自身の将来像をつくる上で重要だ。私立大学に比べ学生任せになりがちな国立大学も積極的に関与すべきだ。

学びの最終学年となる学部4年生、大学院修士課程2年生の就職・採用活動の面接や筆記試験などが本格化している。新型コロナウイルス感染症の対応下だけに各大学は、通常以上にきめ細かな対応に心を砕く。

私立大は就職をはじめ学生支援の手厚さが、受験生人気に直結する。それだけに就活時期だけでなく、早い時期からのキャリア教育に力を入れるところが少なくない。例えば立教大学キャリアセンターは、全学年対象の卒業生との懇談会を頻繁に開催。学生は1年間で最大15人の卒業生の社会での活躍を具体的に知ることができる。

早稲田大学は「専門の教育以外の学生の人間的な成長は、職員が手がける」と自負する。同大キャリアセンターではボランティアや地域連携など40超のプログラムを用意する。私立大は人文・社会科学系の比重が高く、リベラルアーツや全人教育を重視する中で、これらがなじむ面もある。

もっとも一括採用・ジョブ型採用の先行き推測は両大学で分かれる。早大は「一括採用は数年内に崩れる」とみるが、立教大は「多数の文科系学部卒にジョブ型採用は浸透しない」とする。いずれにせよ学生が自分のなりたい姿を考えるきっかけとなるのはプラスだろう。

気になるのは、国立大がキャリア教育にあまり力を入れていない点だ。国立大は自然科学系の比重が高く、専門教育をより重視する。就活は学生個人活動とみなし、難航した時にキャリアセンターを活用する程度だ。

しかし現代の産業社会のニーズは高度な専門性だけでなく、分野融合や社会革新を実現する人材にある。教養・専門教育を問わず、あらゆる段階でキャリアを意識した人材育成を施す役割が大学に求められている。

日刊工業新聞2021年6月22日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
日刊工業新聞の火曜付「ほしい人材×育てる人材」で、今春からいくつもの大学を取材で回り、就活支援のスタンスに差があることを実感した。リードするのは大学の職員だったり、教員だったり、外部出身の人材育成コンサルタントだったり、という多様性も、大学の他のテーマには見られないものだ。それだけに就活よりも圧倒的に長い、職業人人生をどう考えていくかという「キャリア教育」の有無が、学生の育成に重要だと感じた。

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