生粋の“慶応ボーイ”の新学長、取材記者が感じた理工系ゆえの二面性

将来見据え変革行動重視

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伊藤塾長(左、公式インスタグラムより)

慶応義塾の伊藤公平塾長・慶応義塾大学学長は、塾生(学生)の持つ潜在力が社会変革の要になるとみる。慶大は人文・社会科学系の教員・塾生が中心だが、自身が専門とする、これまでの量子コンピューターの実績から国立の研究大学への競争意識も隠さない。伊藤学長に伝統への思いと今後の方針を聞いた。

―5月末の就任時に「全社会の先導者としての理想を追求する」という慶応義塾の伝統を強調しました。

「今の学生が活躍する10―50年後の社会を医療、食料、環境など多様な専門家とともに作りたい。教員・塾生の約7割が人文・社会科学系という国立の研究大学とは逆の構成率ではあるだけに、慶大は“将来を変える行動”を重視していく。加えて2030年までに達成を目指す国連の持続可能な開発目標(SDGs)より先の指針を、我々の社会連携によって1年半程度で出したい」

―人工知能(AI)などの先端分野でも学び教え合う“半学半教”の理念が受け継がれています。

「例えば『AI・高度プログラミングコンソーシアム』は、プログラミングなどに興味ある学生が所属や学年を越えて単位とは別に自主的に学ぶ場だ。学問とビジネスの溝を埋める役割を持つ。教員より先端技術が分かる塾生が講師役となり、協賛企業がその講師代を出す。各種コンテストや講演会などに延べ約2700人が参加している」

―23年4月をめどに東京歯科大学と法人を合併する方針です。

「東京歯科大は短大の歯科衛生士養成のほか、歯学だけでない総合病院を持つ。経営の強化に向けたチャンスだ。08年の共立薬科大学との統合でも財政状況はよくなった。薬学部の教員が病院の薬剤部幹部を務めたり、医薬品設計など理工学部との交流が進んだり、多面的な効果が得られた」

―「国の方針に必ずしもはめ込まなくていい」との考えを示しました。

「我々は独自の基金運用で懸命に努力して年約30億円の資金を生み出している。それが政府による10兆円規模の大学ファンドの計画で、『2%運用の2000億円を国立トップ大学約10校に』と聞くと、これで国立大と公平な競争ができるのかと感じる。我々はどういう工夫ができるのか、深く考えてみたい」

【略歴】いとう・こうへい 89年(平元)慶大理工学部卒。94年米カリフォルニア大バークレー校Ph.D取得。95年慶大理工学部助手、02年助教授、07年教授。17年理工学部長。20年慶応義塾評議員。東京都出身、55歳。

記者の目/“慶応らしさ”社会を先導

幼稚舎(小学校)から育った生粋の“慶応ボーイ”。「受験がない自由な環境で育っても“社会の先導者たらんこと”が強迫観念としてあった」と振り返る。「一つやってみるか」「思ったより大変だが止められない」、そんな慶応らしさから生まれるイノベーションが楽しみだ。(編集委員・山本佳世子)

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日刊工業新聞2021年6月4日

COMMENT

山本佳世子
科学技術部
論説委員兼編集委員

新トップ決定の会見は、どの大学のどの次期学長でもぎこちない。伊藤塾長の時はオンライン会見だっためなおさら、雰囲気がわからず、「物静かな塾長なのかな」と思っていた。ところが就任直後に対面の取材へ出向くと、驚くほどの長身(189.5cm)で、取材する私が途中、3回ほど笑い声をあげる(初対面のトップを相手に、さすがにこれは珍しい)ほどの笑いのセンスと人柄だと判明した。取材前は「幼稚舎から慶応だなんて…」と恐れていたのだが、そこから身に付いた慶応らしさと同時に、半導体・量子コンピューターの競争的な環境でのリーダーという弊紙になじみのある顔も知った。その二面性が伊藤塾長の最大の特徴で、武器なのだと感じた。

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