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「学生1人年720円」、オンライン授業の著作権補償金制度が本格化

オンライン授業など情報通信技術(ICT)活用時の著作権使用の補償金制度が本格化する。中心となる授業目的公衆送信補償金等管理協会(サートラス)は、新型コロナウイルス感染症の特例で補償金0円としていたが、2021年度からは「学生1人年720円」などとなる。政府の予算も措置されて各大学は一息つく。今後は業界団体を通じて著作権者への還元する仕組みが、課題になってきそうだ。(編集委員・山本佳世子)

教材で使う書籍や写真など他人の著作物は、教室内と異なりICT活用により拡散しやすいため有償だ。学校法人や国立大学法人は文化庁唯一の指定管理団体、サートラスに補償金を払う必要がある。この新制度は20年度開始で新型コロナ対応の0円を経て、20年12月に金額が文化庁長官に認可された。支払いの予算も当面は文部科学省などが用意し、いよいよ本格化する。

今後、各大学はオンライン授業受講などが見込まれる5月1日の在学人数に対し、年間包括契約で1人720円を払う。これで教育現場では著作権を気にせずに、写真や新聞記事など種類を問わず回数無制限で使える。他人の著作物をICTでほとんど使わない教育機関や学年なら、都度払いの方法も選べる。

この先は登録の教育機関のサンプル調査に基づいて書籍、写真、雑誌、新聞などの権利者団体別に、サートラスが分配額を決める。さらに各団体が個別の著作権者を特定して分配するが「これが本制度の最も大変な部分」とサートラスの野方英樹理事は説明する。

というのはウェブ検索のコピー&ペーストなどで出典が不明瞭で、著作権者が判明しない場合が少なくないためだ。その分の補償金は、著作権の啓発活動など共通目的事業に使われることになる。

著作権の補償金制度は、利用者側と権利者側のメリット・デメリットのバランスで成立する。大学の場合は法人が利用者側になる一方で、「(教科書などの著作に携わった)教員個人にお金が入るケースがある。関心は高いだろう」(文化庁著作権課)のが注目点だ。研究グループが開発した教材など、大学が著作権者のこともある。

多大な補償金を集めても、真の権利者への還元比率が低くては不満が出てくる。そのためサートラスは出所の明示を利用者に促している。大学の著作権教育で、課題リポートや論文における引用時の出典明記はマナーとされてきたが、対価獲得という新たな切り口も注目されそうだ。

関連記事:学校教材がICT活用で有償に…著作権の新制度で利害関係者がもめている

日刊工業新聞2021年4月1日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
国立大学協会(国大協)などで数年前から、「補償金の支払はどうなるのか」「適切な金額はいくらなのか。提示額は高すぎる」といった議論がされてきた。それだけに認可の金額で、政府が予算を組んでくれたことに、学長や財務担当理事は胸をなで下ろしていると聞く。しかし「とりあえずは」税金が大学を経由してそのまま、権利者団体に届く形がとられただけで、恒久的な予算措置として約束されたものではない。制度が社会にきちんと定着していくかどうかは、その意味でも大切だといえるだろう。

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