どうするコロナ下の講義、大学トップに求められる決断
大学の新年度がまもなく始まる。新型コロナウイルス感染症との共存は続くが、先進技術を活用しつつリアルな社会課題の解決に挑む、教育と研究の機会として活動してほしい。
新型コロナによるニューノーマルへの移行で、悩みの多い分野の一つが大学だ。首都圏のある大規模大学は、入学式を6回に分けて実施する。しかし授業の講義科目では、対面との併用を含め、オンラインが中心のケースが多いようだ。
背景には各大学のアンケートなどで「座学の講義はオンラインでよい」と答える層が、学生、教員にそれなりにいることがある。通学のための時間もかからず、講義に集中でき、不明な点は何度も復習できる点をメリットにあげる。
教室で同級生に「さっきの板書が分からなかったから教えて」と頼んだり、教員に「今日はどうしたんだ」と声をかけられたりするリアルな場を求める声もある。オンラインとリアルの教育効果はまだ明確でない。
東京大学工学部は4月、本郷キャンパス(東京都文京区)へ通学を始める新3年生向けのガイダンスに、例年と異なる工夫をこらす。研究に加え教育で熱心な著名教員6人が、工学の魅力や心得を講演する。狙いは熱意あふれる、リアルな場の魅力を伝えることにある。
合わせて独自開発の接触確認アプリや、講義室の収容人数と換気能力から計算した適切な換気によって、感染リスクの制御を科学的に行う。
染谷隆夫工学部長は対面重視の理由を「工学は実社会の課題に向き合って、ITなど技術を活用して解決する学問だからだ」と説明する。机上の理論をオンラインで学ぶだけでは課題を実感できない。そして「科学に基づいて人々の行動変化を促すことを、大学がしなくてはいけない」と強調する。
今春は1年前と異なり、ニューノーマルの形を各大学が選べる状況にある。正解のわからない実験かもしれない。その中で果敢に取り組んでいくことこそが、大学の本来の姿だと期待したい。