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大学発ベンチャーへ出資解禁、指定国立大で期待される効果

国立大学の子会社は、政府が今国会での成立を目指す国立大学法人法の改正で、範囲が大きく広がりそうだ。ハイリスク・ハイリターンの大学発ベンチャー(VB)への出資が、ついに指定国立大学限定で可能になる。また施設・設備・知的基盤利用と、研究成果活用の事業は全国立大で可能だ。独自の出資金は必要だが、社会貢献と財務基盤強化のこれまでにない相乗効果が期待される。(編集委員・山本佳世子)

ビジネスの切り口で注目なのは、なんといっても大学発VBへの出資解禁が、東京大学や京都大学など指定国立大9校で実現することだ。2022年度からの国立大の第4期中期目標期間の議論から、守備範囲も財源も広げて成長したい、との雰囲気が盛り上がってきたという。「VBなので失敗は当たり前だが、指定国立大なら体力がある」(文部科学省高等教育局・国立大学法人支援課)との判断で、全国立大を対象とすることは見送られた。指定国立大はメリットが少ないといわれる中、巨額の上場利益の可能性があるVB直接出資はインパクトがある。リスクはあるが、出資はいずれも寄付金など独自資金によるもので、自己責任での挑戦だ。

政府出資のベンチャーキャピタル(VC)子会社も、東大など4大学で動くが、企業だけに投資回収を考えると支援しにくい案件がある。そのためまず、大学自身が応援したい創業期VBに少額出資をし、成長段階に応じて子会社VCや他のVCの出資を増やす形が想定される。

一方、「アイデア次第で可能性が大きい」(同)のは、教育研究の施設や設備の利用推進事業だ。大型研究設備の利用を管理の技術専門員ごと子会社で手がけたり、データベースや生体試料のバイオバンクの知的基盤を子会社が提供したりするイメージだ。国立大だけに、他大学や企業など他機関が活用できる仕組みがポイントだ。

また研究成果活用の子会社は東大、京大、東北大学、東京工業大学の4指定国立大で動いている。技術指導などコンサルティングと、社会人教育など研修の2種類があり、東大はこれを分けた2社、他は両事業を手がける1社を持つ。指定国立大以外での大学が設計する際にもこれらが参考になる。

一方で国立大学法人法改正案にはガバナンス(統治)強化も盛り込まれた。国立大の経営体としての側面はさらに強まってきそうだ。

日刊工業新聞2021年3月11日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
指定国立大の位置付けを、政府はどう考えているかが今回の案件でよくわかる。リスクがある大学発VBは、指定国立大のみで 解禁。研究成果活用の企業は、指定国立大だけだったが全国立大へ対象拡大。施設・設備などの事業会社は、最初から全国立大でOKだ。つまり、「指定国立大を先進モデルと位置付けて、微妙な案件は先んじてを可とし、そのリスクやメリットが明らかにする。他大学でも大丈夫となれば対象を広げるし、難しいとなれば政策としては抑える」ということだろう。予算で支援する事業では「予算の切れ目が縁の切れ目」で、先進モデルあるべき採択大学も、自立・自律になっていないと批判されてきた。それだけに予算のつかない規制緩和で、各大学が自ら経営体として工夫をし、リスクテイクするというのは、まさに新しい時代の国立大の在り方といえるのではないか。

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