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「次期科学技術・イノベーション基本計画」の注目ポイントはここだ!

政府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が準備する2021年度からの「第6期科学技術・イノベーション基本計画」素案には、総額約30兆円や10兆円大学ファンド以外にも複数の注目ポイントがある。各取り組みに政府の担当機関と時期が記され達成度が毎年、確認される。また公募型研究資金を獲得した研究者には、どのような研究データを持つのか報告してもらう。これにより産業界の協力も進み、同計画の実効性が高まると期待される。(編集委員・山本佳世子)

次期基本計画の素案は、デジタル変革(DX)などによる社会変革、研究力強化、人材育成が3本柱だ。以前と同様の項目もあるが、実現に向けて担当と時期をふんだんに盛り込んだ点が第5期までと違う。また従来は関わりが薄かった厚生労働省も、社会人教育で主担当となった。

関係者の注目が高い博士後期課程学生の経済支援は「25年度までに約3割が生活費相当額を受給」と記す。5期までは、学生支援の一環で2割としていたが、今回はプロ研究者の卵と位置付け直して数値を引き上げた。

5年間の中での実現度合いは毎年、初夏に出すCSTIの統合イノベーション戦略で明らかにする。実はこれは「AI戦略2019」から採用された手法だ。20年6月のフォローアップでは項目別に評価され、「約90の項目のうち計画通りは約9割」という成績も出された。こうなると各担当機関は、真剣にならざるを得ない。

加えて「これらを政府が明示することで(今後の変化を見通す)予見性が高まり、産業界も具体的に動ける」(内閣府関係者)という。漠然とした目標しか出せなければ、産業界も真剣に取り合わない、という反省が背景にある。

また研究データの利活用に向け、全ての公募型研究資金の新規分で、研究データの概要を出す取り組みも注目だ。

ただし、研究者にとって大事なデータの中身は伏せたままだ。これにより同様の研究の無駄を省いたり、企業が関心を持つデータで産学共同研究が始まったりする動きが期待できそうだ。

研究投資、官民合わせて120兆円へ

出典:日刊工業新聞2020年1月20日

政府は19日、統合イノベーション戦略推進会議(議長=加藤勝信官房長官)を開き2021年度に始まる5カ年の「第6期科学技術・イノベーション基本計画」の策定に向けた答申素案をまとめた。5年間で政府の研究開発投資は総額約30兆円、官民合わせた研究開発投資は総額約120兆円を目指す。人文・社会科学を含めた「総合知」を活用し、超スマート社会「ソサエティー5・0」の実現を目指す。3月にも閣議決定する予定。

次期基本計画では、デジタル化と研究力の強化、教育・人材育成が柱となっている。

持続可能で強靱(きょうじん)な社会を目指すために、スーパーコンピューターなどのデジタル化に向けた基盤技術の整備や開発を進める。地球規模課題の克服や安全・安心な社会に向けた研究開発や社会実装を目指す。産学官連携の強化やスマートシティー(次世代環境都市)の創出などを進める。

研究力の強化は、若手研究者のポスト確保や女性研究者の活躍促進を目指す。研究データの管理やスマートラボでの研究加速、研究施設の整備を進める。

教育・人材育成として、教育現場のデジタル化「GIGAスクール構想」を推進する。

研究拠点・データ連携拡大 各分野戦略

会議では、各分野の政府戦略も示された。政府が年度内に策定する「マテリアル戦略」の中間論点整理では、物質・材料研究機構やスーパーコンピューター「富岳」など日本の強みとなる研究基盤の強化や、デジタル変革(DX)化によるデータの蓄積と利活用を促すべきだとした。

今回策定された「バイオ戦略2020(市場領域施策確定版)」では、30年時点でのバイオ関連市場規模92兆円を目指すとした。人材や投資を呼び込み市場に製品やサービスを供給するため、研究機関や企業、投資ファンドなどによるコミュニティーを形成することで、事業化の促進や地域経済の活性化につながるとした。研究開発や事業化のために各種データを連携する環境の整備を盛り込んだ。

さらに「量子技術イノベーション戦略(量子戦略)」の関連で、基礎研究や人材育成などに産学官で取り組む国内拠点「量子技術イノベーション拠点」を整備し、その中核拠点を理化学研究所に置くとした。東京大学や産業技術総合研究所など国内8拠点で量子コンピューターや量子デバイスの研究開発に取り組み、拠点横断的な取り組みを強化する。

さらに50年までに温室効果ガスの排出量の実質ゼロを目指し、経済と環境の好循環を生み出すための国の方針「グリーン成長戦略」では成長が期待される14分野で高い目標を設定。長期の技術開発や実証に向けた基金での支援や、脱炭素化に投資する企業への税制優遇措置などを掲げた。

日刊工業新聞2021年2月19日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
政府の事業は、後の成果を厳しく評価する仕組みに乏しい。メディアも国民も何年も先の結果より、あっと驚く新規の企画と金額に翻弄されがちだ。それだけに大枠となる基本計画でありながら、「この項目は▽省が主担当、期限は▽年末」と並ぶのは新鮮で、「実行を約束させるものになるのでは」と感じた。同計画(の素案)に目を通していくと、報道では派手に扱われていなくても、「こんなことを言っている!」と驚く項目が、意外にある。日本の研究開発をマクロの視点から真剣に考える人には、一読を勧めたい。

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