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3Dプリンター製の電気自動車を来春予約販売、米ローカルモーターズ

短期間で製造できる利点生かし、同一車台でデザインの違う派生車を展開
3Dプリンター製の電気自動車を来春予約販売、米ローカルモーターズ

ローカルモーターズの「LM3D Swim」(ニュースリリースから)

 3Dプリンターで部品の75%が作られた自動車が世界で初めて販売される。ベンチャー企業の米ローカルモーターズ(アリゾナ州フェニックス)が開発・生産するバギータイプの電気自動車「LM3D Swim」などの車種で、2016年春に事前予約を始める。2017年初頭にも納車開始の予定という。

 ただし、価格はおよそ5万3000ドルと高級車並み。仕様や諸元もまだ公表していない。金型がいらないという3Dプリンターの特徴を生かし、同じシャシーで外観デザインの異なる派生車やカスタマイズがこれまでより短期間で可能になるという。さらに軽量であることと、3Dプリンターで必要な素材しか使わず、しかもリサイクルできるため環境に優しい、といった特徴があるとしている。

 市販車の承認を得るには、米連邦政府の衝突試験をパスする必要があるが、同社では承認に向けた作業に入ったばかり。いったん承認されれば、それと同じシャシー(車台)で複数の派生車を展開する方針という。現在、Swimの「量産」に向けて、テネシー州ノックスビルに小規模の組み立て工場を建設しており、年末には完成の予定だ。

 設計・生産にはCADや3Dプリンターをはじめ、ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング(DDM)といわれる全面的にデジタル化したモノづくり手法を導入。3D設計からシミュレーション、製造、設計データ管理など製品開発のライフサイクル管理(PLM)ソフトには独シーメンスの「Solid Edge」を採用し、ABS樹脂素材はサウジアラビアの化学大手サウジ基礎産業公社(SABIC)から供給を受ける。

 3Dプリンターに使う素材には、ABS樹脂80%、炭素繊維20%の混合素材を使い、軽量化と高強度の両立を狙う。CNETの報道によれば、Swimは部品の75%が3Dプリンターで生産され、さらに技術開発を続けることで、将来その比率を90%まで高めるという。

 また、動力を伝達するパワートレーンについては、プロトタイプがBMWの電気自動車「i3」のものを採用しているが、ネットメディア「スラッシュギア」の取材に対し、ローカルモーターズのチーフマーケティングオフィサーのエル・シェリー氏は「最終的な市販車でも同じパワートレーンを採用する方向」としている。

 2007年設立のローカルモーターズは、大規模工場による大量生産というこれまでの自動車のビジネルモデルとは反対に、各地のコミュニティーに自動車の設計やモノづくりを行う小規模拠点を設け、デザインや技術をオープンな形で共有しながら、地域の雇用確保や経済の活性化を目的に掲げる。

 Swimのデューンバギーの外観デザインもクラウドソースコンテストで募集したもので、オレゴン州ポートランドに拠点を置くコミュニティーメンバーのケビン・ローさんがデザインした。応募の中から7月7日に最終デザインを決定し、ほぼ2カ月後の9月17日にプロトタイプを完成させた。

 現在、本社のあるフェニックスほか、ラスベガス、バージニア州クリスタルシティー、それにノックスビルに「マイクロファクトリー」と名付けられた小型工場を展開中。今後10年間でマイクロファクトリーを世界に100カ所展開するという壮大な構想も持つ。

【3Dプリンターによる「LM3D Swim」部品の製造工程】
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藤元正
藤元正 Fujimoto Tadashi
「ローカルモーターズ」と聞いて、もしやあの会社では?と思ったら、その通りだった。2007年3月にボストン近郊のハーバードビジネススクールで開催されたハーバード社会事業大会(Social Enterprise Conference)に参加した時、ピッチコンテストで優勝したチームが同じ名前だったからだ。自分が当時書いた記事を読み返すと、ローカルモーターズのビジネスモデルについて「実現性は低い」とある。己の不明を恥じるばかりだ。低価格3Dプリンターの実用化といい、米国企業の粘り強さに改めて驚いた。 (ハーバード社会事業大会の記事) http://fp.cocolog-nifty.com/se/files/hbs_se_conf_japan_ind_newspaper_20070321.pdf

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