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博士学生の研究インターンシップ、企業ニーズに新潮流

博士学生の研究インターンシップ、企業ニーズに新潮流

C−ENGINEは企業と学生の交流会も開いている(昨年5月、東工大=C−ENGINE提供)

産学協働イノベーション人材育成協議会(C―ENGINE、京都市左京区、075・746・6872)による博士課程学生らの研究インターンシップ(就業体験)で、企業から数学・物理学系や情報への注目が高まっている。新型コロナウイルス感染症の影響で実施数は減ったが、企業ニーズが高くオンラインの遠隔実施ができる魅力があるためだ。高度なデータ解析や人工知能(AI)活用など、博士学生ならではの新潮流として注目される。

C―ENGINEは、理系の博士学生が製造業で行う2カ月の研究インターンシップなど仲介している。教育活動だが実施の4割程度で就職につながる。秋実施に向けて夏にマッチング。新型コロナの影響で2020年度の成立は40人分、前年度比6割だった。

学生の専攻分野をみると数式やシミュレーションを使う数物系が30%、情報系は18%。過去4年間合計(約400人)は各17%、9%だったのに比べ伸びが目立った。対して本年度の電気電子系は5%、生物系は2%で、過去は各24%、10%だったのに比べて変化が著しかった。

要因の一つは新型コロナで、対面が必要な実験系の中止が増え、遠隔主体の活動が全体の3分の1に伸びたためだ。もう一つは企業ニーズの変化だ。ビジネスのビッグデータ(大量データ)解析などが人気だ。

製造業企業への社会科学系博士学生派遣も同様だ。資料閲覧や会議参加など遠隔活動に向き、高額のコンサルティング料が不要な点が企業にとって魅力だ。教員の講義を合わせ、共同研究と似た形で実施した。

日刊工業新聞2020年10月22日

「インターン」は就活か教育か、ジョブ型採用で対立解消?

インターンシップ(就業体験)を採用に直結させたい産業界、採用とは無関係の教育に位置付けたい大学―。このギャップを解消する動きが、先進企業が導入しはじめたジョブ型採用を背景に起こってきた。文部科学省は博士課程学生の「ジョブ型研究インターンシップ」を試行する事業を、2021年度予算で概算要求する。将来、人数の多い修士課程学生や学部生に広がるかを占う意味でも、注目されそうだ。

就職・採用の活動は時間がかかり、学業を妨げるため産学の意見は長年、対立してきた。近年、浸透したインターンシップも、企業は採用につなげたい。大学側は「そうなったら就活が超長期化する」とはねつけ「インターンシップは教育」と強調してきた。

しかし情報や人工知能(AI)など高度なスキルを持つ人材ニーズが急伸。日立製作所やKDDIなどが、スキルを生かした特定の職務(ジョブ)を前提としたジョブ型採用導入に動きだした。これを受けて、経団連と大学側の就職問題懇談会が共同運営する「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」は今春、ジョブ型インターンシップの試行を打ち出した。

一般的なインターンシップは学部3年生夏など数日で行われる。しかしジョブ型研究インターンシップは例えば、AIを研究する学生が企業の課題解決に2カ月程度をかけて取り組む。短い論文を仕上げるなど成果を出せば、ジョブ型採用につながる。つまりAI専門研究者という確約の下、新卒一括採用とは異なる雇用・給与体系で採用される―という仕組みだ。

これならまさに産学協同の研究を通じた人材育成で、大学も学生を送り出しやすい。情報や材料の高度人材なら企業ニーズもある。それが可能なレベルが博士学生だ。文科省は博士学生の就活時期にはしばりがないこと、博士教育の卓越大学院プログラムで同様の事例が好評なことも挙げる。活動内容はまさに企業の業務であり、有給となる見込みなのも魅力だ。

産学の協議会では、修士課程2年生が長期休暇中に行うインターンシップも提案している。将来の学部生への拡大も模索することになるだろう。大学の学びと就活のバランスをとり直す転機になってきそうだ。

日刊工業新聞2020年9月24日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
ソサエティー5.0からデジタル改革(DX)へ。数年前からの社会的な変化に、新型コロナウイルス感染症が重なって、もはや何についてもこの切り口が欠かせなくなっている。ついにインターンシップでも…という感想だ。「コロナが収まれば戻るもの」と、「ニューノーマルになって様変わりのもの」と両方がある。学生や若手でもこのことを押さえているかどうかが、その先のキャリア開発に大きく影響してくることだろう。

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