新たな学術知を生む仕組みを作ろう!文科省が始めた挑戦的事業の中身

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社会課題解決の大きなうねりが起きにくい人文・社会科学分野で、新たな学術知を生み出す仕組みをオールジャパンで作り出そう―。そんな文部科学省の挑戦的な事業が始まった。採択されたのは“いのちに向き合う”を掲げる大阪大学の案件だ。ウィズコロナや次期科学技術・イノベーション基本計画のタイミングに合わせ、人文・社会科学の新たな考察のプロセスを確立する。(編集委員・山本佳世子)

【研究者を結集】

自然科学の研究は社会ニーズを踏まえて政策的にテーマ設定がされる「戦略研究」と、研究者個人の関心に基づく基礎的な「学術研究」が共存し、相乗効果を出している。これに対して人文・社会科学は学術研究の比重が高い。そのため実社会と離れがち、研究者が塊になるパワーも生まれにくい。公費を使った研究・教育で“文系不要論”が生じやすい要因でもある。

しかし政府は2021年度からの「第6期科学技術・イノベーション基本計画」で、“人文・社会科学のみの科学技術”も対象に加える。これまでは自然科学の研究開発に伴う人文・社会科学に限定され、主でなく従の立ち場に過ぎなかった。

【状況を変える】

この状況を変えようという象徴が、新事業「人文学・社会科学を軸とした学術知共創プロジェクト」だ。「人口動態と社会」「分断社会の超克」「新たな人類社会の価値創造」を切り口に、利害関係者(ステークホルダー)と対話しながら具体的な研究テーマやチームを編成するモデルを1件、確立する。

予算は研究費でなく知の創出の場づくりに使うため年最大3000万円で、支援は20年度から3年間。応募は予想を超える10件で、「次期科技基本計画や指定国立大学の役割意識が後押しした」(文科省・研究振興局振興企画課)とみる。オールジャパンのモデルにすべく、運営の総括や委員に文科省指名者が入るのも特徴だ。

【学術領域開拓】

このほど阪大の人文・社会科学のシンクタンク「社会ソリューションイニシアティブ」(SSI)の提案が採択された。ウィズコロナを意識した“いのち”を対象に、(1)小規模ワークショップ(2)研究チーム編成(3)企業、行政、市民など巻き込んだシンポジウム―を繰り返す。個人の思索でなく、社会との議論で研究テーマを創出しようとしている。

堂目卓生SSI長は「新たな学術領域の開拓、実践的な諸課題の解決に向けて、成果を全国の大学などに普及させたい」と意気込む。阪大の枠を超えてどれだけ広げられるか、注目されそうだ。

日刊工業新聞2020年9月17日

COMMENT

山本佳世子
科学技術部
論説委員兼編集委員

個人の思索の中で芽生えた、自由な発想に基づく種を育てていく学術研究は、人文・社会科学の研究者がなにより大事にしているものだ。しかし「独りよがり、社会と無関係、税金を使っていてもお構いなし」というマイナス面を生みがちだ。新事業は多様な研究者(阪大以外の所属を大歓迎)、社会のステークホルダーとの議論から、同分野の学術研究を生み出す新方策を目指している。歯がゆいのはこの活動が、単純な研究プロジェクトと異なり理解しにくいことだ。私自身、修士まで自然科学、社会人で取り組んだ博士は社会科学と自然科学の融合分野とあって、この活動に強く賛同するのだが、この記事は何度も書き直し、いつも以上に苦労をした。文理の融合・学際領域に関わる、特にこれからの科学を切り拓く若手や中堅の研究者には、ぜひこの事業に参加して、この活動の意義を社会に伝えていくことにも携わってほしい。

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