アフターコロナ好機に大学のデジタル革新が始まる。消える授業、残る授業

  • 2
  • 10

文部科学省はデジタル技術を活用し、大学の授業を革新するプロジェクトを始める。教員やベンチャーなどのアイデア・技術を、ベンチャーキャピタル(VC)などに披露してマッチングし、フィジビリティースタディー(FS、事業化調査)を行う。その後の全国展開で文科省が予算支援をする。新型コロナウイルス感染症対応のオンライン授業で、ログのビッグデータ(大量データ)から教育効果が数値化可能になったのを機に、教員の教育活動を評価する新たな流れを生み出す。(取材=編集委員・山本佳世子)

現場のアイデア事業化

夏に公募を始める文科省の「Scheem―D」(スキームディー)は、教育×技術の「エドテック」と呼ばれる分野で、アイデアを短時間にプレゼンする「ピッチイベント」を開催。教職員、学生、デジタル技術者、投資家を結びつけ、ビジネス化や文科省支援による実用化につなげる。2020年度内に初回のピッチを開催。21年度から年4回実施する計画だ。

文科省は数カ月―数年のFSに伴走するが、当初は予算を手当しない。エドテックの分野では旺文社(東京都新宿区)など教育業界企業のVCもあり、通常の研究と違い少額で済むためだ。民間投資を活用して教員ら個人を応援し、学生の教育効果を高める手法を確立するのが狙いだ。

「ヒト・モノ・カネが集まる場として、大学でコトづくりをする。『新たな教育には国の予算を』という発想を転換してもらう」と高等教育局専門教育課は説明する。FSへの伴走役の省内公募には30人弱が集まった。これも通常の文科省事業とは異なる点だ。

新型コロナ対応で急速に広まった大学のオンライン授業では、小テストで学生がつまずきやすい項目のデータに着目して教材を変えるなど、ビッグデータ活用の先進例がある。こうした事例を個々の大学や教員の工夫を超えて、大学間で共有する動きが出てきている。今回のプロジェクトは新型コロナの補正予算とは無関係だが、アフターコロナはデジタル技術による教育改革には好機で、データでエビデンス(証拠)を示せるのが強みととらえ、プロジェクトを進める。

オンライン授業のデータ活用

大学設置基準など大学教育の法令や告示は対面授業を大原則としてきた。そのため卒業に必要な124単位のうち、遠隔授業は60単位までと制限があった。文科省は新型コロナ対応に限り、この制限をなくす通知を4月中旬に出している。今後、オンライン授業が平常時でも一般的になる上で、「何単位まで可能か」といった制度見直しを、中央教育審議会などで議論することが予想される。

「対面授業で決まっていた授業時間も、スマートフォンでの小刻みの学びやオンデマンド授業の1・2倍速視聴で話が変わる」(専門教育課)など切り口は多様。それだけにオンライン授業による教育効果を数字で客観的に示すことは説得力を持たせる上で意義深い。

専門分野によって実技や演習の比率も違い、学協会などによる分野別の検討も必要になる。一方で障がい者や不登校など、対面授業が難しい学生におけるメリットの大きさを指摘する声もある。

一部の大学では学生の多様な事情に対応すべく、同じ授業を対面とオンラインで展開する例が出ている。しかし教員の負担が重く、大学の経費もかかるだけに定着は難しい。「やはり対面中心に」という揺り戻しもあるとみられる。その中で「かくあるべきだ」の教育論だけでなく、デジタル技術で取得されるデータを活用し、学修者である学生本位の教育改革が進むことが期待されそうだ。

日刊工業新聞2020年7月2日

COMMENT

山本佳世子
科学技術部
論説委員兼編集委員

オンライン授業で認められる単位数が増え、大学設置基準で定められている学生収容定員に対する専任教員数の縛りは緩くなる―。この大変化は近いうちに確実に起こる、と私はにらむ。実際に今回のオンライン授業導入で、某一流大学の理系教養科目では、同じ科目を担当する4人の教員の実力差(優れているのは1人だけ)が明らかになってしまった、という話を耳にした。オンラインならその1人の教員で十分となるだろう。研究力評価で四苦八苦するのは理系教員が中心だったが、教育力評価で授業をみるとなると、数多い私立大文系教員にも大事で、「十年一日のごとく」の授業は消え去るだろう。学生本位の教育のためには、好機であるのは間違いない。

関連する記事はこちら

特集