9月入学にデメリットの数々、社会のリーダーは民意を読み違えるな

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新型コロナウイルス感染症への対応を機に、9月入学・始業の声が高まっている。多大な予算や労力が必要な大規模制度改革を、非常時に検討するのは適切でない。休校中と再開後の支援に集中し、学業の遅れや格差の解消に注力すべきだ。

学校休校が長期化するなかで、全国知事会などから9月入学が問題提起され、政府は検討に入った。9月入学は1980年代の臨時教育審議会でも議論され、問題点が多いため実施は見送られた。

日本の学校制度は会計年度をはじめ、社会の年度単位の諸制度と関係が深く、変更は多方面に影響を及ぼす。日本教育学会は9月入学について「性急な決定を避けるべきだ」と声明を出した。5カ月の後ろ倒しで学費収入は、私立大学だけで1兆円近く欠ける。義務教育開始年齢が遅れ、移行期は入学人数が1・5倍になると問題の大きさを説明した。

産業界と関わりが大きいのは新卒一括の採用活動だ。コロナ対応で活動の日程は柔軟になる方向だ。いずれは日本も即戦力の中途採用を主力とする採用通年化、随時入社が普通になるかもしれないが、9月入学で学生の就職活動にどのような影響が及ぶかや、受け入れる産業界側の声も聞く必要がある。

9月入学のメリットは平常時において「大学の国際化対応くらいしかない」との声は強い。現状でも、秋の後期入学は複数大学で実施され、留学生や社会人が入学している。東京大学が浜田純一前総長のリードで検討した秋入学は、高校卒業後に自らを見つめ直す期間「ギャップターム」の導入が狙いだった。これは東大で入学直後の学部生が休学し、国際交流やボランティアを行うプログラムに形を変えている。国際化ではまず、留学生向けの英語学位課程を増やすなど、大学側の手だては入学時期以外に多数ある。

今、すべきことは学ぶ機会を奪われた児童・生徒・学生を支える早急な対応だ。アルバイト先の休業で収入を失い、困窮する大学生も多い。国民の本当の思いを見誤ってはならない。

日刊工業新聞2020年5月14日

COMMENT

山本佳世子
科学技術部
論説委員兼編集委員

半端だった新たな仕組みがコロナ対応で一気に動きだし、効果を実感する事例が少なくない。オンライン授業しかり、在宅勤務しかりだ。9月入学への期待はそれらと重なっているのではないか。つまり、「9月入学は何度も言われながら実現していない案件だとか。欧米とそろえる国際化、というのもよさそうだ。これを機に一気に変えて、国民の士気を高めよう」というのが、推進派の思うところではないか。しかし少し調べると、メリットの何倍ものデメリットがあることがすぐにわかる。「ここでパアッと大きなことを」というのは受けがよいかもしれないが、社会のリーダーは民意を読み違えてはいけない。今、拡大している学業の遅れや格差の早急な解消が、社会の本当の願いであるはずだ。

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