東大が「デザイン思考」育成を全学展開の背景
東京大学は生産技術研究所が手がけるデザイン思考の人材育成を2020年度から全学展開する。新たな価値創造に必要な集中的なアイデア出しと議論、試作品づくりで、副専攻に相当する科目群を用意する。大学院工学系研究科など修士課程の学生30人程度で実施する。学問知識を積み上げる従来の工学教育とは異なる、クリエーティビティー(創造性)発揮の教育法確立を図る。
4月からデザイン思考を身に付ける7科目ほどの正規科目を開講する。対象は工学系研究科のほか情報学環・学際情報学府、新領域創成科学研究科の3部局だ。19年度の試行で、グループワークの重要性を確認したことから少人数で行う。
まず大量の刺激とアイデア出しのワークショップをし、次に成功している製品・サービスにおける背景のアイデアと技術を学ぶ。アイデアを周囲に伝えるスケッチや電子工作の手法を学び、それらによるプロトタイプ(試作品)作成のプロジェクトを行う。
東大生研は産業に近い研究を行う伝統があり、ここ数年はデザインとテクノロジーを融合させ、新たな価値を生み出すデザイン思考に注力している。「価値創造デザイン(DLX)推進基盤」を立ち上げ、デザイナーを多く抱える英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)との連携や、ビジネスパーソンのデザイン思考を育てる「デザインアカデミー」の実施など手がけている。
工学の専門教育では、特定分野の知識を体系的に積み上げることが重要だ。一方、デザイン思考では多様な技術や専門知識を組み合わせる。そのためプロジェクト型の演習で、さまざまな学問領域の知識を“つまみ食い”する、従来と異なる教育法が有効だとしている。
キーワード/デザイン思考
Q デザインの本来の意味は「設計」「企画」だとか。
A そうだ。日本では見た目の意匠という狭義の意味が浸透し、しかも製品開発では技術開発と別の切り口だった。しかしスマートフォンの「iPhone(アイフォーン)」のように、創造性発揮にテクノロジーとデザインは不可分となってきた。そのため広義のデザインの思考法―英語ならデザインシンキング―が注目されている。
Q 創造性って教育できるの?
A 特定の才能を持つ一部の人のものだと思われてきたが、そうでもない。教育法として確立されてはいないが、アイデアと議論、試作品作成を短期間に何度も繰り返す形が有効だとされ、実践されている。
Q イノベーションに向けた突拍子もないアイデアは、受け入れられにくいよね。
A すばらしいアイデアが「荒唐無稽だ」と拒否されないように、具体的なイメージで周囲に示す必要がある。そのために絵や紙工作、簡単なプログラムでの動画、電子工作などによるプロトタイプが重要なんだよ。