話題の「ゲノム編集」、トムソン・ロイターが選ぶノーベル賞有力候補に
シャルパンティエとダウドナの両博士、米ブロード研のチャン博士は外れる
10月5日からの今年のノーベル賞発表を前に、米調査会社のトムソン・ロイターは恒例の受賞有力候補の発表を24日に行った。今回新たに加わった18人の中には京都大学の森和俊教授、大阪大学の坂口志文教授の日本人2人も含まれ、メディアに一斉に報道されたので、ご存知の方も多いだろう。実は同時に、化学賞の候補として、話題の「ゲノム編集」を開発したフランス人と米国人の2人の女性科学者が選ばれている。世界的ではこちらの方の注目度が高く、トムソン・ロイターの英文ニュースリリースでもこの2人の名前が最初に紹介されているほどだ。
「ゲノム編集手法CRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)の開発」として、ノーベル化学賞の候補に挙げられたのは、スウェーデンのウメオ大学スウェーデン分子感染医学研究所(MIMS)准教授や独ハノーバー大学医学大学院教授などを務めるエマニュエル・シャルパンティエ博士と、カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)教授のジェニファー・ダウドナ博士。ゲノム(全遺伝情報)の正確な編集を通じて、遺伝病やがんといった難病の治療法確立や農産物の改良などに役立つとされ、2人は米タイム誌が4月に発表した「世界でもっとも影響力のある100人」にも選ばれている。
CRISPR/Cas9は第3世代の遺伝子編集技術。これまでの手法に比べて容易で、かつ高い精度で狙ったゲノムの位置を切断し、バクテリアや植物、ヒトなどの特定の遺伝子の機能を破壊したり、遺伝子を置き換えたりすることができるとされる。ただ、特許紛争も巻き起こり、米ハーバード大学と米マサチューセッツ工科大学(MIT)の共同研究機関であるブロード研究所、および同研究所でゲノム編集の研究に携わるフェン・チャン博士が、CRISPR/Cas9に関する10以上の主要特許を米国特許商標庁(USPTO)から認められたが、これにダウドナ博士の所属するUCバークレー側が強く抗議する事態となっている。
一方、特許とは別に、学術界ではシャルパンティエ博士とダウドナ博士への評価が高い。何より、2012年に米科学誌サイエンスでCRISPR/Cas9のゲノム編集手法を初めて報告したのがこの2人だからだ。トムソン・ロイターがノーベル賞有力候補を選ぶ選考基準でも、学術論文の被引用数(引用された回数)から各分野で影響度の高い研究者を割り出している。そのため、USPTOに「先に発明した」と認められはしたものの、論文掲載で後塵を拝したチャン博士は、トムソン・ロイターの候補からは外れてしまった格好。とはいえ、この辺りをノーベル賞の選考委員会がどう評価するかは不明だ。
チャン博士も手をこまねいているわけではなく、CRISPR/Cas9で遺伝子切断を行うCas9酵素をCpf1という別のたんぱく質に置き換えた新しい手法の開発に名を連ね、25日付の分子細胞学の有力専門誌セルに論文が掲載された。ヒトゲノム計画でリーダーの一人を務めたブロード研究所のエリック・ランダー所長はニュースリリースで、「遺伝子工学を前進させる非常に大きな潜在性を持つ」と研究成果を強調してみせたが、効果はCas9とそれほど変わらず、むしろ特許紛争を回避できる利点の方が大きいのでは、とみる向きもある。
チャン博士とダウドナ博士は、それぞれが関わるバイオベンチャーでも競争相手になっている。チャン博士が創設メンバーの米エディタス・メディシン(Editas Medicine、マサチューセッツ州ケンブリッジ)は投資家からシリーズB(ベンチャー企業に対する第2段階の投資)で1億2000万ドルの資金を8月に調達。ダウドナ博士が共同創設者およびアドバイザーを務めるインテリア・セラピューティクス(Intellia Therapeutics、同)も、シリーズBでアトラスベンチャーズやノバルティスなどから7000万ドルを調達したと9月1日に発表した。いずれもゲノム編集による難病治療法を研究しており、投資家からの期待が高い。
ネイチャー系の学術論文誌ネイチャーバイオテクノロジーは3月、2014年のバイオスタートアップ企業の世界トップ10(今回は11社)を発表したが、エディタス、インテリアともトップ10に選ばれている。
※「ゲノム編集技術を難病治療に、米VBがビル・ゲイツ氏らから1億2000万ドル調達」(2015年8月18日)
http://newswitch.jp/p/1726
「ゲノム編集手法CRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)の開発」として、ノーベル化学賞の候補に挙げられたのは、スウェーデンのウメオ大学スウェーデン分子感染医学研究所(MIMS)准教授や独ハノーバー大学医学大学院教授などを務めるエマニュエル・シャルパンティエ博士と、カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)教授のジェニファー・ダウドナ博士。ゲノム(全遺伝情報)の正確な編集を通じて、遺伝病やがんといった難病の治療法確立や農産物の改良などに役立つとされ、2人は米タイム誌が4月に発表した「世界でもっとも影響力のある100人」にも選ばれている。
CRISPR/Cas9は第3世代の遺伝子編集技術。これまでの手法に比べて容易で、かつ高い精度で狙ったゲノムの位置を切断し、バクテリアや植物、ヒトなどの特定の遺伝子の機能を破壊したり、遺伝子を置き換えたりすることができるとされる。ただ、特許紛争も巻き起こり、米ハーバード大学と米マサチューセッツ工科大学(MIT)の共同研究機関であるブロード研究所、および同研究所でゲノム編集の研究に携わるフェン・チャン博士が、CRISPR/Cas9に関する10以上の主要特許を米国特許商標庁(USPTO)から認められたが、これにダウドナ博士の所属するUCバークレー側が強く抗議する事態となっている。
学術論文の引用された回数から影響度の高い研究者を割り出し
一方、特許とは別に、学術界ではシャルパンティエ博士とダウドナ博士への評価が高い。何より、2012年に米科学誌サイエンスでCRISPR/Cas9のゲノム編集手法を初めて報告したのがこの2人だからだ。トムソン・ロイターがノーベル賞有力候補を選ぶ選考基準でも、学術論文の被引用数(引用された回数)から各分野で影響度の高い研究者を割り出している。そのため、USPTOに「先に発明した」と認められはしたものの、論文掲載で後塵を拝したチャン博士は、トムソン・ロイターの候補からは外れてしまった格好。とはいえ、この辺りをノーベル賞の選考委員会がどう評価するかは不明だ。
チャン博士も手をこまねいているわけではなく、CRISPR/Cas9で遺伝子切断を行うCas9酵素をCpf1という別のたんぱく質に置き換えた新しい手法の開発に名を連ね、25日付の分子細胞学の有力専門誌セルに論文が掲載された。ヒトゲノム計画でリーダーの一人を務めたブロード研究所のエリック・ランダー所長はニュースリリースで、「遺伝子工学を前進させる非常に大きな潜在性を持つ」と研究成果を強調してみせたが、効果はCas9とそれほど変わらず、むしろ特許紛争を回避できる利点の方が大きいのでは、とみる向きもある。
チャン博士とダウドナ博士は、それぞれが関わるバイオベンチャーでも競争相手になっている。チャン博士が創設メンバーの米エディタス・メディシン(Editas Medicine、マサチューセッツ州ケンブリッジ)は投資家からシリーズB(ベンチャー企業に対する第2段階の投資)で1億2000万ドルの資金を8月に調達。ダウドナ博士が共同創設者およびアドバイザーを務めるインテリア・セラピューティクス(Intellia Therapeutics、同)も、シリーズBでアトラスベンチャーズやノバルティスなどから7000万ドルを調達したと9月1日に発表した。いずれもゲノム編集による難病治療法を研究しており、投資家からの期待が高い。
ネイチャー系の学術論文誌ネイチャーバイオテクノロジーは3月、2014年のバイオスタートアップ企業の世界トップ10(今回は11社)を発表したが、エディタス、インテリアともトップ10に選ばれている。
※「ゲノム編集技術を難病治療に、米VBがビル・ゲイツ氏らから1億2000万ドル調達」(2015年8月18日)
http://newswitch.jp/p/1726
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