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快適な家の条件とは何か?まずはリビングから考える

おすすめ本の本文抜粋「住みたい間取り -自分でつくる快適空間-」

リビングの設計ポイント

リビングは家族が集まる家の中心的なスペースですから、いちばん快適な場所であることが望ましいです。テレビの前にソファが1つだけ置かれていれば、大概の家庭ではお父さんが陣取ってしまい、家族はリビングに近寄りにくくなります。うっかり近寄ると「勉強はしているか」と聞かれたり、昼間の仕事の愚痴でも聞かされようものなら、そそくさと逃げ出したくなる気持ちも理解できます。
 休日や食後に、家族が各自の部屋にこもってしまっては団らんも何もありません。ではどうしたらいいのでしょうか?
 「家族とは何か」などと言う話を持ち出すつもりはありませんが、間取りのつくり方次第で、少しは良い関係を築くことができます。設計の段階であらかじめ、お互いに「気配が感じられる、ほど良い距離」に家族それぞれの居場所を設けておくことがポイントなのです(図1)。

図1 リビングには家族それぞれの居場所を設ける

2階リビング

リビングを1階に設けるか2階に設けるかは大きな分かれ道です。家族の生活スタイルや、敷地環境(隣の建物の配置や方角)との関係でよく考える必要があります。
 住宅が密集している敷地で、1階にリビングを設けてしまうと、太陽の光が一日中まったく入ってこないことも起こり得ます。必ずしも直射日光が入ってくる必要はありませんが、一日中薄暗いリビングでは気が滅入ってしまいそうです。それでも1階にリビングを設けたい場合は、光をうまく採り入れるための工夫が必要です。

コートハウス

1階にうまく光を採り入れる一例として、コート(中庭)を設けるという考え方があります。そうすることで、隣家の影響を受けずに光や風を採り込むことができます(図2)。とりわけ敷地の間口が狭くて奥行きのある細長い敷地の場合に有効です。

図2 コートハウス(中庭)
 例えば、お隣の家が敷地境界線ギリギリに建っている場合、もし普通に建ててしまうと部屋は薄暗く昼間でも照明をつけることになりかねません。それをなんとか避けるために有効なのが、このコートハウスです。
 この中庭を道路側に面しないように設ければ、道を行き交う人の視線も気にする必要がありません。リビングやダイニングに連続させると中庭の外部空間が、あたかも内部空間に取り込まれたようになり、広々と感じます。暖かい時期には中庭でブランチを楽しんだり、さながらオープンエアーカフェが自宅にできることになるのですから、考えただけでワクワクします。
 中庭には落葉樹などを植えることで季節の移ろいが感じられて良いと思います。あるいは竹なども風情があって、とりわけ若葉の頃は春風に葉が揺られ、爽やかな気持ちになります。

広く感じる設計手法1(視線を遠くに)

実際に部屋の面積が広いことと、広く感じることとは異なります。筆者の研究室では「視点間距離」という考え方で、住居をどのような方法で設計すれば広く感じられるかを研究しています。わかりやすく言うと、視線がどこまで届くかということを意識して設計することで、広く感じられたり狭く感じられたりするのです。
 壁などの何かに遮られたりすると、視線はそこで止まってしまいます。できるだけ視点間距離を長くすることが、広く感じさせる秘訣です。図3 に簡単な例を示しましたので参考にしてください。

図3 広く感じる設計手法1 視線がどこまで届くかを意識する

広く感じる設計手法2(回遊性)

家の中をぐるっと一周できるような間取りにすると、広く感じられることはよく知られています。言い換えると、なるべく行き止まりをつくらないということです。実際の面積が広いわけではないのですが広く感じるのです。あくまで精神的なことですが、とても有効な設計手法と言えます。
 しかしこれは案外難しく、やはりどうしても行き止まりが多くなるのは仕方ありません。無理矢理ぐるっとまわれるようにするのではなく、生活動線や家事動線をよく考えて、その結果として上手くまわれるように間取りができたら、良しとしましょう。
 図4 ではLDKのなかでまわれるようにした例です。広さにある程度余裕がないと難しいのですが、このようにすれば広々と感じることができます。

図4 広く感じる設計手法2 行き止まりをつくらない

吹き抜け

リビングルームなどは広々としているほうが気持ち良いですから、2階まで吹き抜けて天井が高くなっていると晴れやかな感じがします。
 しかし、吹き抜けは必ずしも良いことばかりではありません。その分のフロアー面積は減ってしまいますし、高い天井面に照明器具を付けた場合は電球を交換することもままなりません。長持ちするLED が主流になりつつあるとはいえ、この点を検討しておく必要があります。
 また、高いところに窓をつける場合は、「どうやって拭くか」もあらかじめ検討しておかなければなりません。
 さらに、暖かい空気は軽く上昇しますので、特に夏場は上部に溜まった熱を外に排出することを考えておく必要があります。よくある例として、開閉できない高窓や天窓を付けてしまう住宅があるようですが、それは良くない設計と言えます(図5)。

図5 吹き抜けの問題点

勾配天井とあらわし梁

階をまたがって吹き抜けにするのではなく、部屋の天井を張らずに、屋根の形状に沿って勾配なりの天井にする方法も、広々と感じて気持ちの良い空間になります。また構造体である梁をあえて見せることで、さらに遠近感が出て広く感じます。この梁(あらわし梁)は照明器具を取り付けるのにも便利です。
 また外の軒裏を屋内の天井面に合わせて連続させると、部屋が広く感じます。さらに仕上げ材を同じようなものにすると、より効果が増します(図6)。

図6 広く感じる設計手法3 連続させる

ポイント

・リビングに家族それぞれの居場所をつくる!
・広く感じさせるために遮るものを少なくする!
・吹き抜けにする前に問題点も把握しておく!

書籍紹介
住みたい間取り -自分でつくる快適空間-
木村文雄 著、A5判、144ページ、税込1,760円

間取りは、家の設計図のベースである。その間取りは、どんな考えやルールのもとにつくられているのか、どんな工夫が可能なのかを、ハウスメーカー出身の設計者が建て主に向けて解説する。この本を読めば、住みたい家の間取りを自分で描けるようになる。

著者紹介
木村 文雄(きむら ふみお)
近畿大学 建築学部建築学科 教授
1976年3月芝浦工業大学工学部建築学科 卒業。同年4月積水ハウスに入社。住宅設計、CAD開発、商品企画、研究開発などに携わり同社総合住宅研究所長を経て2013年4月より現職。サステナブル社会に求められる住まいについて研究。山形大学特任教授、一級建築士。(書籍発行当時)

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日刊工業新聞2019年11月29日

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