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「ぷよぷよ」は「テトリス」のよさを反転させて生まれた

連載・発想のスイッチの入れ方#02/ゲーム作家・米光一成

「ぷよぷよ」は1991年に誕生し、今なお愛されている人気ゲームだ。「テトリス」という絶対的な人気を誇る「落ちモノパズルゲーム(落ちゲー)」がすでに世に存在していた中で、ぷよぷよはどのように誕生したのか。生みの親で足元で考案したカードゲーム「はぁって言うゲーム(※)」も人気を博すゲーム作家の米光一成さんに「ぷよぷよ」の核となったアイデアやそれにたどり着いた経緯、そしてアイデア発想法などを聞いた。(聞き手・葭本隆太/写真・成田麻珠)

※はぁって言うゲーム:怒っている「はぁ」や感心している「はぁ」、とぼけている「はぁ」など、与えられたお題を、声と表情だけで演じて当て合うカードゲーム。プレーヤーは共通の台詞を与えられた状況を演じ、他のプレーヤーはそれぞれ何を演じているか当てる。手振りは禁止。お題は「はぁ」「えー」などの一言のほか、「寝顔」「ウインク」といったしぐさなど30種類を収録している。2018年11月に発売し、累計売り上げは10万4000部。

スタッフがやる気をなくしていた

―「ぷよぷよ」誕生の背景にある最も重要なアイデアは何ですか。
 「ソフト(やわらかい)」をテーマにするとよいのではと思ったことが根幹にあります。(そのアイデアに至った背景には)自分も大好きだった「テトリス」のよいところとして連想したキーワードの「ソリッド(硬い)」を反転させることで違うゲームにできればという発想がありました。

―そのアイデアに至った経緯を教えてください。
 私は(アイデアを考える際は)とにかく思いついたキーワードをすべて書き出し、それを客観視する作業を当時から行っています。ぷよぷよを考えたときは「テトリスのよいところ」と「落ちゲーを作る状況」について書き出しました。後者には「スタッフがやる気をなくしている」といったワードがありました。当時はテトリスや「コラムス」が登場し、「落ちゲー」がジャンルとして確立されそうな雰囲気の中で、(所属していた)コンパイルも落ちゲーを作らなくては、とチームが動いていました。サイコロが降ってくるゲームだったのですが、一向に面白くならず企画がつぶれそうな中で私が引き継ぐことになりました。しかし、スタッフはやる気をなくし、飽きている。デザイナーはすでに次のプロジェクトに入っており、新しい絵が描けないので必然的にサイコロを使うことになる。ただ、その時にサイコロでなくても、昔作った別の絵を持ってくればよいと気づき、その前に私が作ったRPGゲーム「魔導物語」の雑魚キャラである「ぷよぷよ」を使えばよいと発想しました。サイコロのゲームで面白くならない中で、サイコロからぷよぷよを出すことでプログラマーの目先が変わり、やる気を出してくれると思いました。

一方、「テトリス」のキーワードとして「ソリッド」がありました。ゲームと言えばマリオとか柔らかいキャラクターを操作するのにテトリスはブロックという無機物を操作する。横一直線に並ぶと消える数学的なソリッドなイメージのルールもあります。それであれほど面白いので「ソリッド」はテトリスのよいところだと思いました。ただ、それを踏襲すると二番煎じになると思って、ソリッドの真反対であるソフトをテーマにすると全然違うものになるのではと考えました。ぷよぷよも柔らかいキャラクターなのでソフトをテーマにするとよいと思いました。

―たくさんのキーワードの中で「ソフト」が光って見えるような瞬間があったのですか。
 考えを巡らせていてふっと力を抜いたときに「やわらかいだわ」と思った瞬間はあるのですが、その瞬間を求めていると出ない気がします。(大事なことは)ほぼ完成しているけれど、自分が気づいていない状況まで自分を追い込んでいるかどうかという気がします。

ソフトがすべての要素を決めた

―ぷよぷよの面白さの一つに「連鎖」があると思うのですが、これはどのように発想したのですか。
 ぷよぷよの要素はソフトというコンセプトからすべて派生しています。元々コラムスには連鎖があって自分で組み込むのは難しいけど、ときどき連鎖によってたくさん消える爽快感がありました。ぷよぷよは一直線でなく曲がってもつながります。これもソフトなイメージです。曲げて繋げることを利用して自分で組み込む連鎖ができると面白いに違いないと。対戦という仕組みもキャラクターの楽しげな声もソフトというイメージからきています。

―「ソフト」というキーワードが出た瞬間にすべての要素が一気に決まっていくのですか。
 とても説明が難しいです。「『テトリスの良さ』と『落ちゲーを作る状況』に関わるいろいろなキーワードをピースとして、最初はランダムで並べているものをパズルのようにはめていくけど、いまいち絵にならないのが、ソフトが見えた瞬間にオセロがすべてひっくり返るようにできた」と説明していたこともあるのですが、どこか実感として違う。ソフトはジグソーパズルがほぼ完成していた中での最後のピースか、もしくは、これを隅においたから後は自動的にわかるわみたいな感じです。

―ぷよぷよの開発にはテトリスが多分に影響したと思いますが、目の上のたんこぶのように感じることはありませんでしたか。
 いや、もう神、神。大好きですもん。もうあれは大発明だと思ってました。テトリスが登場した当時はコンピューターゲームの容量が増えてシンプルなゲームから複雑でストーリー性があってたくさんのキャラクターが登場して、という方向に推移していました。そのころにあれほどシンプルなのにずっと楽しいゲームが現れてショックでした。自分はきれいな絵にだまされていたと。自分はこれが好きなんだと思いました。ぷよぷよを考えるときは神に似た何かにならないように、でも神のスゴいところは受け継ぎたいと考えていたと思います。

―米光さん自身はぷよぷよの一番の面白さはどこにあると思いますか。
 「あれ」全部が答えだと思います。

―ぷよぷよは20年以上愛され、eスポーツの公式ゲームにもなりました。
 ずっと遊んでいただけてうれしいですし、eスポーツに向くなぁと思います。

ぷよぷよの画面イメージ。画像は最新作『ぷよぷよeスポーツ』のもの/(c)SEGA

―ゲーム作家としてeスポーツの盛り上がりをどのように受け止めていますか。
いろいろと複雑な感情もありますが、大本は歓迎するというか面白そうだなぁと、もっと面白くなるといいなと思っています。

―複雑とは。
 うまく言語化できないのですが、ゲームという非現実的なマジックサークルに入ると、何のしがらみもなく純粋に楽しんで、それが終わったら元の日常に戻ることができるのがすごい利点だと思います。職業として行われるeスポーツは(お金や生活とか)楽しみ以外のものも背負ってしまうので、無邪気なゲームとは少し違うものになる。それはそれで面白いし、スゴいと思うので歓迎していますけど。

仕組みを変える

―米光さんが手がけたカードゲーム「はぁって言うゲーム」が足元でヒットしています。
 演技力のゲームだけど、その力とは違う場所で勝ち負けが決まる構造は意識しました。大げさに表現する力が求められたり、とても演技しやすいものと演技しにくいものを入れて(カードを引くときの)運が影響したり。(また、)普段の生活では伝わらないとつらいけど、そこをゲームにした瞬間に面白くなる。その反転ができるといいといつも思っています。売れたのは運。自分の作ったゲームはすべて面白いと思っているので、売れなければ(逆に)運が悪かったと思っています。

「はぁって言うゲーム」のパッケージとカード/(c)幻冬舎

―「運が悪かった」ゲームにはどのようなものがありますか。
 いっぱいあります。最近では時事ネタを使ったカードゲーム。賄賂とかが出てきてお金をためた人が勝ち。「これは面白い」と思って作ったのですが、冷静になると(賄賂を獲得した悪い人が勝つので)気分が良くない。ゲームは明るい方がいいと反省しました。

―米光さんにとってこれまでで最高のゲームは何ですか。
 今作っているものです。いつもそのときに作っているゲームが一番スゴいと思っています。(今作っているゲームは)タロットカードで遊ぶ「ゲーム」と「儀式」と「占い」をハイブリッドしたもので、手札4枚を持ってルールに従って全部出せればクリアになり、(出したカードによって)占いができます。一人で遊ぶカードゲームはルールを守ることに意味を見出しにくいので、なかなかポピュラリティ(大衆性)を得られない。だから「儀式」ということにして、一人でルールを守ることに対する意識を生み出そうと考えました。普段一人でカードゲームを遊ばないような人が遊んでくれるかもしれないと思っています。

―これからどのようなゲームを作りたいと考えていますか。
 私は大本の仕組みを変えることの影響力は意外と大きいと思っています。(例えば)テレビのクイズ番組に出てた高速道路の休憩所のトイレの話ですが、個室のドアのカギを開ける部分が小物置場になっていて、その仕組みによって忘れ物が激減したらしいです。単なる仕組みなのに交番に連絡するといった働く人たちの手間をなくし、忘れ物をして困る人も減ると。そういう仕組み一つで変わることがたくさんあるし、それをたくさん思いつけば、劇的にいろいろなことが改善すると思います。それを考える人が増えるといいと思っています。私なりのアプローチはこの仕組みだから面白いと体感できるゲームを作ること。それを子供たちがプレーして(仕組みはいろいろなことを変えられると)気づくといろいろなことが変わる気がしています。

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葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
小学生の頃、スーパーファミコンの「すーぱーぷよぷよ」に熱中しました。とても強い親友との対戦に熱くなり、負けて悔しくて一人で連鎖の練習をしました。対戦できる落ちゲーは画期的だったように思います。インタビューでは、落ちゲーの企画を引き継いでからコンセプトのカギとなる「ソフト」にたどり着くのに3日間だったという時間軸の短さに驚きました。「これからどんなゲームを作りたいですか」という問いに対する答えも印象的でした。

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発想のスイッチの入れ方
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ビジネスの現場においてアイデアが求められる機会は多いですが、その発想に苦慮される方も多いのではないでしょうか。ではベストセラー商品などを生み出した人たちはどのように発想したのでしょう。自身のアイデア発想法などとともに聞きました。

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