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元シャープ技術者が手腕を分析、戴会長とカルロス・ゴーン被告の違い

立命館アジア太平洋大学名誉教授・中田行彦氏インタビュー
元シャープ技術者が手腕を分析、戴会長とカルロス・ゴーン被告の違い

シャープの戴会長兼社長

「シャープ再建 鴻海流 スピード経営と日本型リーダーシップ」著者に聞く

―元シャープ技術者として、シャープの戴正呉会長兼社長の手腕をどう分析しますか。

「経営危機に陥ったシャープが台湾・鴻海精密工業の傘下で再建できた最大の原動力は、戴会長の『日本型リーダーシップ』だ。海外から来た再建請負人は、過去のしがらみがないので、スピード経営とコスト削減を断行できる。戴会長はそれだけでなく、社員寮で生活し、出勤時には早川徳次氏の像に必ず一礼する。これにより社員と価値観を共有しやすくしている。そこが日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告との違いだろう。ただ問題は、今のシャープの経営陣に、生え抜きの人材が少ないこと。信賞必罰の判断基準が適切なのか。この点で、社員の信頼を十分に獲得しきれていない」

―海外へ技術流出しているのでは、という批判も出ていますが。

「技術流出はないと、私は思う。鴻海前会長の郭台銘氏は、シャープ買収前から(大型液晶パネルを生産する)堺工場の運営会社に投資しており、長い共同運営の経験がある。競合する同業者だったら技術流出はあり得るかも知れない。だがシャープと鴻海はそうではなく、補完関係だ」

―郭氏は台湾総統選の出馬に意欲的でしたが、断念しました。

「戴会長体制が続くうちは、シャープの経営には影響ないのではないか。鴻海が中国の広州や米国のウィスコンシン州などで投資している工場には、シャープの技術力が不可欠だ。だがそれらはあくまで鴻海案件。シャープの経営と切り分けて考える必要がある」

―シャープの課題は。

「新興国向けの商品開発を進めること。そしてその商品を中国で展開するための販路を、シャープが自力開拓することだ。シャープは、液晶テレビの1000万台販売を達成するために、鴻海のネットワークに頼り切って安値販売したことで、ブランドが毀損してしまった。挽回のためには、シャープと鴻海が『共創』して現地のニーズにあった商品を開発し、それを市場に売り切ることが重要だ」

―シャープは有機ELスマートフォンで存在感を示せますか。

「有機ELパネルを手がける工場で、本格的な生産ラインを構築できていないとみられる。同工場での良品率も低いという。だがまずは商品を市場に出すことが大事。生産するうちに良品率は上がっていくものだ。シャープが折り畳み式の有機ELスマートフォンを出すことができれば、韓国サムスン電子にも対抗できるだろう」

―日本のモノづくりに対する提言は。

「日本の強みは、組織間で知識を共有して微調整を繰り返す『すり合わせ』だ。これがなければ、シャープの『亀山モデル』は実現できなかった。今後はその戦略を、グローバル化とどう両立させるか。単にモジュールを組み合わせるやり方では、日本は勝てない。私が所属する立命館アジア太平洋大学では、アジアからの留学生が約4割もいる。そういった多様性の中で、いかに提携して価値を生み出すかが重要だ」(大阪・園尾雅之)

立命館アジア太平洋大学名誉教授・中田行彦氏
◇中田行彦(なかた・ゆきひこ) 立命館アジア太平洋大学名誉教授
71年(昭46)神戸大院工学研究科計測工学専攻修了、同年シャープ入社。液晶の研究開発に約12年、太陽電池の研究開発に約18年携わる。その間、シャープアメリカ研究所などでも勤務。04年から立命館アジア太平洋大の教授として技術経営を教育・研究。17年より現職。京都府出身、73歳。
『シャープ再建 鴻海流 スピード経営と日本型リーダーシップ』(啓文社書房 03・6709・8872)
日刊工業新聞2019年11月18日

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