超高速回線とスパコン連動…東大の新キャンパスの全容が見えてきた

東大柏Ⅱキャンパス、来年に3機関連携施設

東京大学の新たな研究・産学官連携を担う柏II(ツー)キャンパス(千葉県柏市)整備の全容が見えてきた。2019年3月に完成した新棟は東大のベンチャーや、デザインとモノづくりの支援が目的だ。国立情報学研究所との連携によるビッグデータ(大量データ)を扱える超高速回線の建物は、20年に完成予定。18年に整った産業技術総合研究所の施設・設備における、スーパーコンピューターの解析との連動が目玉だ。東大は自らの土地に2研究機関との連携で建物を建て、トップクラスの3機関連携によるイノベーション創出を目指す。(取材=編集委員・山本佳世子)

柏IIキャンパスは駅から徒歩圏内で国際寮のほか、かつてラグビー場もあり半端な状態だった。しかし五神真総長が掲げる「つくば‐柏‐本郷イノベーションコリドー構想」によって変貌している。

入居が半分ほど進んだ「産学官民連携棟」の機能は三つある。教員が取り組む地域・産学連携、ウェットラボが必要な生命系を含む東大関連ベンチャーのインキュベーション、デザイン視点のモノづくりの各支援だ。東レなど10数社が関わる。

東大の土地に、情報学研と連携して建設中の施設には、データ転送能力を大幅に強化した学術情報ネットワーク「SINET(サイネット)」が整備される。気象衛星の情報やスマートフォンの位置情報など全国のビッグデータが、SINETを通じて行き来するようになるという。

一方、産総研は「社会イノベーション棟」に「人間拡張研究センター」を置き、介護やスポーツの身体的負担軽減を、東大との身体センサーやロボットの技術で手がける。「データセンター棟」ではクラウドデータの人工知能(AI)解析で群を抜くスパコン「ABCI」が動いている。将来はSINETとABCIを連動させることで、従来にないビッグデータ活用が可能になる見通しだ。

キーワード/つくば‐柏‐本郷イノベーションコリドー

Q 東京大学のつくば‐柏‐本郷イノベーションコリドー構想とは。

A 東大がつくばイノベーションアリーナ(TIA)などで連携してきた茨城県つくば市、本部のある東京都文京区の本郷キャンパスと、この中間にある柏キャンパスをつなぐ産学官民連携の構想だ。五神真総長が任期中の取り組みとして2015年に発表した「東京大学ビジョン2020」で出てきた。

Q 柏は、大学院新領域創成科学研究科や研究所があるところだよね。

A それは正確には「柏メインキャンパス」で、つくばエクスプレス線「柏の葉キャンパス駅」からバス利用となる。他にサテライトで小ぶりの「柏の葉駅前キャンパス」と、この中間地点の柏IIキャンパスがある。これらを合わせ柏キャンパス(事務組織としては柏地区)と呼ぶ。

Q 地域連携もコリドーにプラスだね。

A 住民を巻き込んでフィールド実証試験など行う「柏の葉アーバンデザインセンター」(UDCK)が活発だ。駅前キャンパスの利便性を活用し、地域開発の三井不動産などと活動している。

出典:日刊工業新聞2019年11月14日

大学の施設整備「財源の多様化」で取り組み広がる

出典:日刊工業新聞2019年10月31日

大学の施設整備は、日々進んでいく老朽化の対応から災害時の臨時措置まで、目立たないながらまさに“縁の下の力持ち”だ。教育・研究の質に影響するが、国立大学では改修さえ十分でない。その中で近年の大学経営のキーワード「財源の多様化」により、新たな施設整備の取り組みが出てきている。企業や自治体などステークホルダー(利害関係者)と連携した、施設整備の新たな展開が注目される。(取材=編集委員・山本佳世子)

国立大学の施設(建物)は通常、「国立大学法人等施設整備費補助金」で予算が組まれる。近年は財政が厳しく、文部科学省の中期整備計画で求める分とは、大きく隔たるのが常態化している。

国費に基づく自己資金だけでなく、寄付や産学連携などで外部の財源・資源を活用することは、昨今の国立大の学長ら経営陣の大きな関心ごとだ。主目的は運営費交付金の不足分のカバーだ。そのため多額の資金が必要な新施設は、創業者寄付を獲得したラッキーな大学に限られた。ところがここへ来て企業や自治体、他研究機関などとの連携による新形態が出てきている。

ユニークで目を引くのは、初の県から国立大への施設移管となった佐賀大学のケースだ。柿右衛門様式で知られる磁器、有田焼に関わる佐賀県有田町の「佐賀県立有田窯業大学校」を、同大が2017年度に統合した。

施設は改修の上で移管され、新たな同大「有田キャンパス」として生まれ変わった。16年度新設の同大芸術地域デザイン学部の学生の実習や、同大肥前セラミック研究センターの研究が、ここで行われている。

企業寄付での産学連携の建物は、旧帝大でも地方大学でも事例がある。学生宿舎整備での工夫は多くの大学で参考になる。土地と建物で別の協力機関のこともある。支援機関とは先に「(人的交流など)ソフト面でのつながりがあり、それがハードの施設につながるケースが多い」(文科省文教施設企画・防災部)という。

東大と産総研柏センター、2省庁タッグでシナジー

文部科学省が所管する東京大学の土地に、経済産業省の予算で同省が所管する産業技術総合研究所(産総研)の建物を建設―。2省庁にまたがる新たな仕組みによる施設「産総研柏センター」が、東大の柏IIキャンパス(千葉県柏市)で2018年度から動いている。「人工知能(AI)×モノづくり」に向けた最先端の研究がここで行われる。19年3月の開所式後は「行き先として告げられることが増えている」と、タクシー運転手も変化を感じる注目の場だ。

同センターは地上4階建てで延べ床面積6000平方メートルの研究棟と、世界最高レベルのAI向けスーパーコンピューター「ABCI」を備える小ぶりなデータ棟からなる。きっかけは同大の同キャンパス活用思案の最中に、経産省の16年度補正予算で、産総研に同分野の拠点の予算が付いたことだった。

文科省は「産業振興が目的だが公益性が高い」と判断し、定期借地を可とする規制緩和を実施した。事業期間はサーバーの寿命も勘案し、10年を基本に5年単位で延長。事業終了後は大学に、土地を更地にして返還するか、施設を譲渡するかになるという。

東大の有馬孝尚総長特任補佐は「知的財産が問題になる産学共同研究の場合など、協定の作成に時間をかけた」と振り返る。同大は基礎研究の機関で、複数社との契約に問題がない。対して産総研は応用への橋渡しを手がけ、1社単独の契約が普通だからだ。「何が起こるか想定して詰めるが、その想像自体が異なっている」(有馬総長特任補佐)。トップ同士の会合に事務職員の人材交流も活用して乗り越えた。

研究はセンサーとロボットを組み合わせた人の身体能力の向上がテーマだ。スパコンでは大雨被害の個人スマートフォンからのクラウド情報や、センサーのビッグデータ(大量データ)の解析に取り組む。東大は産総研との共同研究で核の技術を提供したり、1大学では所有できないハイレベルの計算システムを活用したりする。土地、施設から設備、人、研究成果と多様な資源の活用による相乗効果につながりそうだ。

東工大がぐるなび創業者寄付で建設中の建物鳥瞰図(隈研吾建築都市設計事務所提供)

COMMENT

山本佳世子
科学技術部
論説委員兼編集委員

東大×産総研×NII(情報学研究所)で、産学連携×クラウドビッグデータ用スパコン×SINETというこれ以上、考えられないほどの強力な組み合わせだ。柏Ⅱの地で順次、開所式など行われていたが、なぜか東大がリリース配信など積極的でなく、ベールに包まれていた感がある。柏は地域連携に心を砕いており地元意識が強いが、ここには全国の大学・研究機関・企業に顔を突っ込んでもらいたい。

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