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引き合い「殺到」のロボットSI、夢はヒューマノイド

HCIの挑戦
引き合い「殺到」のロボットSI、夢はヒューマノイド

ロボットの導入ニーズはさまざまな産業分野に広がっている

工場や店舗などで使うロボット関連システム構築のHCI。こうした業態は「ロボットシステムインテグレータ(SIer)と呼ばれ、同社は、関節ロボットなどを活用した組み電線(ワイヤハーネス)製造装置やスーパーマーケット向けの飲料陳列装置など、顧客の求めに応じたさまざまなシステムを構築する技術力、ノウハウを持つ。国内の人手不足を背景に、自動化や省力化ニーズは高まる一方で、引き合いは「殺到している」(奥山剛旭社長)状態だ。

機械設計、製造のノウハウ生かして

同社は機械メーカーの技術者だった奥山剛旭社長が、2002年に起業。ワイヤやケーブル、チューブやシートなどの製造装置を手がけてきた。中でも、撚線機(よりせんき)など電線メーカー向けの機械は現在も続く主力製品だ。

これまで、髪の毛の3分の1以下の極細電線6本を高速で撚る極細線用チューブラー型撚線機や、世界で初めて磁気軸受を使った無振動撚線機などを開発。携帯電話用ワイヤハーネスなどのエレクトロニクス分野から、自動車、医療、エネルギー、食品、物流など幅広い分野に納入実績を持つ。

「元々、ロボットに関心があった」という奥山社長は機械設計製造のノウハウを生かし、08年からロボットを使った自動化システム事業を始めた。得意とする電線メーカー向けをはじめ、さまざまな業種の工場に検査、部品搬送、金型脱着、梱包、ピッキングなどのロボットシステムを納入している。

現在、売上高の7割をワイヤ・ケーブルなどの製造装置が占める。ロボット事業は3割程度にとどまるが、旺盛な需要を背景に、2020年5月期には全体の4割以上に伸長する見通しだ。

最新技術を追究

ロボットシステムインテグレータとしてさらなる成長を目指し、自社で人工知能(AI)開発にも挑む。画像認識AIは自社の製造装置に搭載しているほか大手企業の工場にも納入実績がある。深層学習のライブラリを使い、ばら積みになったケーブルを効率よく取り出すようなロボット用AIも開発した。

経営資源が限られる中小規模のシステムインテグレータが自前のAI開発を進めるケースはそう多くない。日々進化する技術動向をキャッチアップするため「泉大津AI研究会」と称するAI技術のビジネス適用を研究する団体も運営。技術革新の動向にアンテナを張る。

AIを自社開発する狙いについて奥山社長はこう語る。「AIは複数動作をまとめてこなすような部品ロボット組み立て工程など、需要が高まる複雑なロボットシステムに欠かせない要素となりつつあります。自社開発すれば、ロボットと組み合わせやすいといったメリットが発揮できます」。

奥山剛旭社長

地元企業の導入支援も

足元の旺盛なシステム需要やAI開発などに対応する一方、システムインテグレータとしての持続的な成長へ向けて欠かせないのが人材だ。ただ、日本人の理系人材は大手との争奪戦が激しいこともあることから同社では外国人材を積極的に採用している。

近年はベトナム、インド、ミャンマー、ブータンなどから広く技術系の人材を受け入れてきた。工学系の高い技術を持つ外国人材に日本人と同じ条件で働いてもらっており、それぞれが営業や機械・電気設計やSE(システムエンジニア)の業務で活躍する。奥山社長は「各国のトップクラスの大学を卒業した人材で非常に優秀。日常会話ができれば十分に働いてもらえる」と信頼を寄せる。

人材不足はシステムインテグレータ業界だけでなく、中堅・中小企業に広く共通する構造的な問題である。18年に近畿経済産業局と連携し、地元の泉大津商工会議所内にロボットシステムのショールームとセミナールームを有する「HCI ROBOT CENTER」を開設。同拠点でセミナーなどを開いて、地域企業の人手不足対策としてのロボット導入を支援するほか、ロボット産業に関わる企業や学生の育成にも取り組んでいる。

所属するロボットシステムインテグレータの全国組織「FA・ロボットシステムインテグレータ協会」では、全国の会員企業と連携し、学生向けの人材育成事業を展開。高校生などから新しい産業用ロボットのアイデアを提案してもらい、その創造性や市場性を評価する「ロボットアイデア甲子園」を企画、運営している。

今後の有望市場

今後の成長市場として有望視するのは食品加工業界。「人手による作業が中心で、他の産業分野に比べてロボット導入が遅れている」(奥山社長)からだ。人手不足の問題もあり、今後、食品加工工場のさまざまな工程でロボットシステムの採用が進むとにらむ。

例えばコンビニ向けのおにぎりを複数同時につかんでコンテナに詰めるシステムや、生肉などの食材の形を崩さずにつかめて、全体を丸洗いできる人協働ロボット。すでに開発済みのこれら製品は、労働力不足に直面する製造現場における生産性向上の一助なるだろう。

機械製造で培った確かな技術と、中長期的な視点に立った人材戦略で地歩を着実に固めつつあるHCI。「いつの日か工場で人と協働できるヒューマノイドを作りたい」(奥山社長)との夢を抱きつつ、未来の生産現場を具現化しつつある。

日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
【企業情報】  ▽所在地=大阪府泉大津市式内町6の30▽社長=奥山剛旭氏▽設立=2002年6月▽売上高=6億5600万円(2019年5月期)

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