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民事の相談件数は年8万件超、なぜパワハラは増え続けるのか

世代ギャップと職場の余裕のなさ
 「パワーハラスメント(パワハラ)」という言葉を目にする頻度が増えてきた。中には、パワハラの被害者が休職したり、最悪の場合自殺に追い込まれたりする深刻なケースもあるようだ。

就活生が企業を決めるただ一つの基準

 厚生労働省によると、2018年度に寄せられた民事上の個別労働紛争の相談件数のうち、パワハラなどの「いじめ・嫌がらせ」が8万件超にのぼり、過去最多となった。相談内容別でも25・6%を占め、7年連続でトップである。

 何ともやるせない話だが、実際にパワハラは増えているのか。この言葉の認知度が上昇したことで相談に訪れる人が増加したという見方もできるだろうが、企業社会を取り巻く環境変化も背景にあると考えられる。

 実際に相談に関わる立場として感じることは2点ある。一つは、いわゆる「ジェネレーションギャップ」である。一昔前なら、「愛のムチ」を振るっても、我慢すれば長期雇用を保証されるという意識が相手にあれば、受け入れてもらえたかもしれない。

 しかし今は働く人の意識も価値観も多様化している。自分がかつて育てられてきたように指導しても、相手には響きにくいのだ。自身の行為がパワハラだと申し出を受けて「そんなつもりはなかった」とショックを受けるのは、このパターンが目立つ。

 もう一つは、職場の余裕のなさである。成果を急ぐあまり、時間に追われ、過重労働が発生している職場では、お互いに十分なコミュニケーションが取れなかったり、ストレスがたまりやすかったりする。そこでつい、力を発揮しきれない、または弱い立場の従業員に感情をぶつけてしまうこともあると推測する。

 これらを防ぐためには、まず、「何がパワハラに当たるのか」について従業員皆が共通認識を持つことが重要である。そして、「このような言動をとったら、相手はどう受け止めるか」を想像するだけの心の余裕を持ちたい。

 19年5月には、パワハラ防止措置を企業に義務付ける改正労働施策総合推進法が成立した。法制化によって、パワハラ抑止効果が期待されるところであり、企業にもいっそうの対応が求められよう。

 厚生労働省のハラスメント対策ポータルサイト「あかるい職場応援団」などを参考に、社内方針の明確化や啓発、相談窓口設置などの対策を進めてほしい。
(文=高橋美紀<中小企業診断士>)
日刊工業新聞2019年10月22日

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