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オールシーズンインタイヤ、国内で市場活気づく事情

非降雪都市部、利用増狙う
オールシーズンインタイヤ、国内で市場活気づく事情

国内ではオールシーズンタイヤの需要が高まっている

 国内で乗用車用のオールシーズンタイヤ市場が活気づいている。欧米では普及しているが、地域によって道路環境の違う日本での販売は限定的だった。近年は性能を強化してラインアップを増やす海外メーカーの進出や、需要の掘り起こしを狙う国内メーカーの投入が相次ぐ。突然の降雪でも慌てずに運転できるメリットを訴求し、雪が少ない都市部などでの利用増を見込む。(文=松崎裕)

 オールシーズンタイヤは夏用と冬用タイヤの性能を併せ持ち一年中の走行が可能だ。夏冬用タイヤの履き替えが必要ないため保管コストや交換の作業負荷が抑えられる。北米ではタイヤ販売の7割を占める。欧州でも年平均20%以上の増加率で成長する。

 国内では古くからオールシーズンタイヤを手がける米グッドイヤーが2016年に国内工場での委託生産に踏み切った。専用ブランド「ベクター」を国産化してラインアップの幅を広げるなど、この5年で販売数を4倍以上に伸ばした。

 国内メーカーも動きだす。住友ゴム工業は需要の高まりを受け10月に乗用車用オールシーズンタイヤの国内投入に踏み切る。ダンロップブランドで発売する。新たに開発したタイヤの材料に含まれるコンパウンドが夏用タイヤと同等の操縦安定性を実現する。トーヨータイヤも海外で販売していたスポーツ多目的車(SUV)用オールシーズンタイヤを8月に投入した。

 オールシーズンタイヤには厳密な定義がなく各メーカーの判断に任されている。多くは米国材料試験協会(ASTM)の認証規格「スノーフレークマーク」の性能を備える。同規格があれば日本の高速道路におけるチェーン規制に対応する。

 年に数回しか雪が降らない非降雪地域ではオールシーズンタイヤの活躍の余地は大きい。冬用タイヤを履かずに雪道で立ち往生することや運転をためらう心配が減る。急な降雪でも一定の走行性能を発揮できるためドライバーの行動範囲を広げるきっかけになる。都市部のドライバーやカーシェアリングなどでの利用が期待できる。

 だがオールシーズンタイヤは万能ではない。特に厳しい積雪や凍結路面を安全に走行するには冬用タイヤに履き替える必要がある。いずれのメーカーも降雪地域では冬用タイヤの装着を推奨する。最大手のブリヂストンは海外で乗用車用のオールシーズンタイヤを販売するが、国内ではさまざまな地域で路面が凍結する状況を踏まえ、テストマーケティングの一環として一部店舗での販売にとどめる。江藤彰洋社長は「日本での降雪時の走行を考えると、しっかりとしたスノー性能を持つ冬用タイヤで安全、安心、快適を提供したい」とする。

 オールシーズンタイヤの販売は冬用タイヤと同様、10―12月に本格化する。各社はタイヤの性能と運転できる環境の違いを丁寧に説明しながら、新たな需要の掘り起こしに力を入れる。
日刊工業新聞2019年9月25日

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