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中国のディープな半導体事情をすべて話そう

フェローテックホールディングス・賀副社長に聞く
中国に主力工場を多く構えるフェローテックホールディングス。同社の関連キーワードを挙げると「米中貿易摩擦」、「浮き沈みの激しい半導体関連企業」、「生産の主力拠点が中国」などだ。最近の経済情勢からすると、キーワードだけではネガティブなイメージを持つかもしれない。しかし、そこに勝機があるとみている。中国進出当初から継続して中国事業を担当している賀賢漢副社長に中国国内の状況と同社の戦略を聞いた。

中国版ナスダックに注目せよ


 ー中国国内の半導体関連の状況を教えてください。
 「中国政府が打ち出している『中国製造2025』の中でも半導体関連は重点分野だが、まだ弱い。半導体製造装置メーカーは技術的に世界トップレベルではなく、材料・消耗品関係は日本に及ばない。しかし、市場としては世界トップだ。国を挙げてここ5年くらいで力を入れ、投資も多い。貿易摩擦の影響でさらに国産化に向けた動きは加速している」

 「そこで注目されているのが、中国版ナスダックと呼ばれるハイテク企業向け新興市場『科創板(かそうばん)』だ。科創板は7月に取引を開始した。半導体関連では、装置メーカーのAMEC(エーメック)も上場し、予想を超える初値を付けた。上場している企業は今は業績が良くなくても、成長が見込める企業や国の重点業種も多い。国からの支援だけでなく、市場からの資金調達でさらに加速していくだろう」

 ー中国に主力製造拠点があります。米中貿易摩擦の影響はありますか?
 「主力製造拠点があるからこそ、当社にとっては追い風になっている。全体的には、中国の国産化が進んでいるが、すべて国産化ができているわけではない。米国企業から他国へ調達を変える動きの中で、中国に製造拠点があり、市場に入り込んでいる当社に多くの引き合いがきている。特に半導体関連、電子デバイス、自動車関連の三つのセグメントでポテンシャルを発揮している」

米国離れが進めば受注が伸びる


 ー国産化に伴うビジネス機会は。
 「中国国内には半導体デバイス(半導体チップ)を生産するファウンドリーは大小含めて63社ある。そのファウンドリーのほとんどが洗浄ビジネスの顧客だ。洗浄ビジネスは半導体製造装置、FPD(フラットディスプレーパネル)製造装置部品の精密再生洗浄事業で2001年から中国で展開している。中国国内で上海や天津など五つの拠点があり、半導体業界の成長とともに売り上げも伸びている。19年3月期の売上げは単体で約34億円。3年後の22年3月期は85億円を目指す。洗浄ビジネスの顧客にシリコンウエハーやシリコンパーツなど我々の半導体関連の商材を合わせて営業し、次のビジネスにつなげている」

 「シリコンウエハーについても、中国国内では自給率はまだ5パーセントもない。
当社は8インチウエハーは上海工場で月産10万枚、6月に試運転を開始した杭州工場で35万枚の計45万枚の生産を計画している。大口径の12インチウエハーは3万枚の試作ラインの体制も整える」

 「さらに中国でチャンスがあるのは、民生家電品や自動車関係で使用されるパワー半導体用のセラミックス基板だ。中国国内で約90パーセントのシェアを占める。一番の競合企業は米国資本の会社だが、顧客の米国離れがが加速すれば、さらに受注が伸びると予想する。中期的にはセラミックスだけでなく、窒化ケイ素基板の量産化も計画している」

 ー半導体関連以外での中国国内の展開を教えてください。
 「世界でトップシェアを持つサーモモジュールが通信機器や医療機器や自動車関連で使用されている。サーモモジュールは電流の流れで、対象物を温めたり、冷やしたりするペルチェ効果を応用した半導体冷熱素子だ」

 「中国が先行していると言われている5G(第5世代通信)関連では、中国大手通信メーカーの通信機器の9割以上に当社のサーモモジュールが搭載されている。医療分野では血液のDNA分析や細胞分析機器で使用される。成長分野で特に温度管理が重要な装置に使用されるため需要があり、今後も伸びていく」

 「自動車関連ではシートの温度調整用に使用されている。また電気自動車(EV)などに搭載するリチウムイオン二次電池の温度コントロールは、冷却水で調整している。より厳密に温度管理ができるサーモモジュールでの調整を目指し、自動車メーカーなどと検討を進めている。自動車の場合は、導入、実用化に時間がかかるため、3~4年後からの量産化を目指している」

逆にチャンス、常に先を読んで投資


 ー日本や他の国での事業は?
 「まず日本は、真空シールやサーモモジュールを製造する千葉工場を始め、5月から一部稼働している山形の石英工場、セラミックスの石川・尼崎工場などの拠点をマザー工場として位置づけている。次世代の半導体素材など最先端の研究開発を進めていく。洗浄ビジネスは、現在は中国市場に特化した事業だが、今後は中国外のアジアやヨーロッパなどでの展開も検討中だ。シリコンウエハーも増産に伴い、中国だけでなく世界的に販売を強化する」

 「既存のビジネスに固執している会社は成長しない。会社の発展には常に先を読んで最先端の技術、研究開発をしなければならない。上海には洗浄ビジネスの開発センターと分析センターの設立を計画している。また、人材育成にも力を入れている。中国国内で修士や博士課程を卒業した人材を多く採用している。今後も、社員の特許出願も推奨して、その実績に応じて申請したら報奨金が出るような仕組みづくりも整備していきたい」

 「シリコンウエハー、パワー半導体基板、半導体前工程の製造装置に使用される石英、セラミックス、シリコンパーツ、CVD-SiCなどの消耗材、サーモモジュールと世界シェアの65パーセントを持つ真空シール、半導体製造装置部品の洗浄ビジネスなどの商材と中国の国産化が進む成長産業がマッチしている。特に中国市場においては、米中貿易摩擦を逆にビジネスチャンスと捉え、中国企業にはない技術や製品を強みとして、新たな市場を切り開いていく」

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