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トヨタとスズキ、資本提携を後押しした危機感の正体

CASE、小型EV 補完を狙う
トヨタとスズキ、資本提携を後押しした危機感の正体

豊田社長と鈴木会長の共同会見(2016年10月12日)

 トヨタ自動車とスズキが資本提携を決めた。協業関係をさらに発展させ、両社の関係をより強固にするのが狙いだ。小型車やインド市場の攻略などを含め、より全方位で技術や市場をカバーしたいトヨタと、ハイブリッド車(HV)などの環境技術や自動運転といった次世代技術の開発力を求めるスズキ。競争が激化する自動車市場に対する両社の危機感が、一層の関係深化を後押しした。(取材・長塚崇寛、政年佐貴恵)

仲間づくり加速 インド・アフリカで相互支援


 2016年に業務提携の検討を開始して以来、トヨタとスズキはゆっくりとだが、着実にその距離を縮めてきた。17年にスズキがインドで20年に投入する電気自動車(EV)に対しトヨタが技術支援し、トヨタブランドでも販売する協業を決定。18年には小型エンジンやハイブリッドシステムでの協業や、トヨタのインド工場でのスズキ車両の生産、アフリカ市場へのスズキ車両の相互供給などを発表した。3月には、トヨタのハイブリッドシステムのスズキへの供給や、OEM(相手先ブランド)供給の対象車種や地域の拡大などを加えた。

 そして今回、資本提携まで踏み込むと同時に、協業の範囲を自動運転まで広げる。資本提携については当初からトヨタの豊田章男社長、スズキの鈴木修会長がともに「ゆっくり考える」と話し、可能性に含みを持たせていた。相互出資の実現で、両社の関係はより強固になる。環境技術や電動化技術、コネクテッドなど、より広い分野での相互補完が見込める。

スズキのインド・グジャラート工場

 トヨタのスズキへの出資は「仲間づくり」の一環だ。自動車業界はCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と呼ぶ次世代技術が台頭。米グーグルといった大手IT企業を中心とした異業種も巻き込み、競争が激化している。新技術に対応するための開発負担は重く、1社単独で生き残るのは厳しくなっている。

 トヨタの協業の姿勢は「ウィン―ウィンであれば基本的にはオープン」(トヨタ首脳)だ。ただし単に規模を追う“数合わせ”ではなく「部品やパワートレーン単位など、どこかで実際の連携が起きなければ意味がない」(同)。そこで資本提携のもう一つの狙いとして浮かぶのが、スズキが得意とする「安価な小型車づくり」の自社への取り込みだ。

 走行性能ももちろん重要な要素だが、自動運転やシェアリングなど車の使われ方が変わる中、これからの車ではニーズがサービス軸にシフトする。ソフトウエアや人工知能(AI)、センサーといった新たな技術分野への投資が大きくなり、そうなれば今以上に車を安く作る必要性が高まる。

 トヨタはこれまでも、お家芸であるトヨタ生産方式や原価低減で低コストのクルマ作りに取り組んできた。しかし「ともすれば過剰になりうる品質要求で、トヨタ車はまだまだ高いとのイメージがある」(トヨタ関係者)。安価な小型車を作る点ではスズキに強みがある。
       

トヨタ電動車普及チャレンジ


 さらにトヨタは、目的地までの最終短距離移動「ラストワンマイル」を担う超小型EVを、EV普及の一つのカギと捉える。スズキは18年にトヨタとマツダ、デンソーなどが参加するEVの基盤技術開発会社「EV C・A・スピリット」にも加わった。今回の自動運転分野での協業と合わせ、小型EVでスズキの車づくりの知見を生かせれば、競争力をより高められる。
トヨタ電動車普及チャレンジ

 出資比率のさらなる引き上げも想定されるが、トヨタ側は「今回の出資で協業の十分な体制が整った」とする。豊田社長も「従来のような資本の論理で仲間をつくるのは通用しない。互いの理念を共有することが求められる」との考えを示す。

 16年の協業検討開始時、豊田社長はスズキの魅力として「変化に対応する力」と「周囲を巻き込む力」を挙げた。この二つは、CASEを軸とする新時代に「モビリティーサービスプラットフォーマー」を目指すトヨタにとって欠かせない要素だ。トヨタは国内を中心とした陣営拡大により足場を固め、「100年に1度」と呼ばれる産業構造の変革を乗り切る構えだ。

MaaSに照準 スズキ、単独では困難


            

 「我々は独立した企業として経営していくことに変わりはない」。スズキの鈴木修会長はかねてこう話してきた。ただCASEをめぐる動きは日々加速度を増しており、一社単独では対応が困難と判断。自動運転など次世代技術の研究開発を進めるため、資本提携に踏み込むことにした。

 スズキは15年に独フォルクスワーゲン(VW)との資本提携を解消して以降、資本面では独立性を維持してきた。ただ16年に検討を始めたトヨタとの業務提携の段階から、資本提携は既定路線との見方もある。次世代技術では分の悪いスズキが生き残る道として、トヨタとの提携関係を深めることが不可欠だった。

 スズキの20年3月期の研究開発費は、前期比7・5%増の1700億円を計画している。CASE対応などに向けて増加傾向が続く中、トヨタの出資による資金調達は財務面でも大きい。スズキは16年3月期に35・4%まで低下した自己資本比率の改善が喫緊の経営課題だった。足元では40%を超える水準まで回復したが、もう一段の増資が必要と判断した。実務面でも提携効果の大きい、トヨタによる出資が最適と考えた。

 23日には約250億円を投じ、相良工場(静岡県牧之原市)の隣接地に次世代自動車の研究開発施設を整備することを発表。取得予定地の規模は約80万平方メートルに及ぶ可能性がり、自動運転技術や電動車の開発を加速する。

 トヨタ自動車やソフトバンクなどが出資する移動サービス会社、モネ・テクノロジーズ(東京都港区)にも出資しており、自動運転の先にあるMaaS(乗り物のサービス化)にも照準を合わせている。
日刊工業新聞2019年8月29日(トピックス)

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