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社員の健康な心身を成長に結びつける「ワークエンゲイジメント」って何?

日立システムズのケーススタディ
社員の健康な心身を成長に結びつける「ワークエンゲイジメント」って何?

eスポーツ部の発起人は北野昌宏社長(左)

 イノベーションを起こすには健康な心と身体が必要だ-。日立システムズが働き方改革に力を入れている。社員の健康な心身を維持する活動を始めたり、ICT(情報通信技術)などデジタルの力を活用したり、あの手この手で働き方改革に取り組む。eスポーツによる社内外との接点強化も特徴的だ。IT・情報サービス企業では”人材“こそが最も重要な資産となる。日立システムズでは「ワーク・エンゲイジメント」をキーワードに、社員の仕事に対する熱意や活力を高めることで、企業の成長に結びつけようとしている。

会議時間が1時間以内だと半額


 現在、日立システムズは「SMILE Work∞Life Action(以下、SMILE∞)」という企業活力向上施策を展開している。「働き方改革」「健康経営」「ダイバーシティ」の三つの考え方を取り入れ、いきいきと働ける環境整備や健康に対する主体的な行動支援、多様性を受け入れ問題解決力や創造性を高めるための取り組みを進めている。SMILE∞は、2017年度から始め、本年で3年目を迎える。意識浸透に向けて、同社オリジナルのキャラクター「スマイルカ」が牽引役となり活動を盛り上げる。
「スマイルカ」

 SMILE∞では多数の取り組みを同時並行で実施して効果を上げている。例えば、意識改革の一環として18年7月に実施した全社員とその家族に向けた手紙の送付だ。

 SMILE∞の趣旨や取り組み内容を紹介するだけでなく、社員の家族も利用できるがん検診のための補助金や育児・介護・余暇活動などに役立つ補助制度を伝える。

 また、同社では年次有給休暇(以下、年休)の取得目標である年間20日の取得を社員に促しており、「家族からの呼びかけで年休取得が促進されるきっかけ作りにもなれば」(人事総務本部ダイバーシティ推進センタの金森さつきセンタ長)との狙いもあった。

 意識改革だけでなく業務プロセス改革にも取り組んでいる。コーポレート部門が事業部向けに依頼する調査や提出資料を削減・簡素化したほか、紙媒体の申請を電子化したり、社内共通システムを改善したりした。

 また、RPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)を導入することで定型業務の効率化を進めている。営業バックオフィスではこれまで手作業で入力していた受注登録業務を自動化することで、作業時間の大幅短縮に加え、入力ミス減少による生産性・品質向上につながった。

 そのほか、勤労業務における長時間残業防止のためのフォローメール自動作成・送信や、調達業務における「発注未承認」「未検収」アラートメール送信など、対象の業務範囲を広げ、5業務50件、月間3、680時間の労働力を効率化した。

 会議の運営方法の見直しも業務プロセス改革の一つ。同社では長時間の会議がたびたび開かれていることが課題だった。そこで導入したのが会議の費用化だ。

 これまで無料だった会議室の使用料を部署から徴収することにしたのだ。ただ、これでも効果は限定的だったため、17年10月からはさらに運用方法を見直した。

 会議時間が1時間以内だと単価を半額にし、2時間を超えると1・5倍にした。朝型勤務を推奨するため午前9時以内までの利用を無料にするなどの施策も展開。1時間を超える長時間会議が20%減少した。社内からは「会議の中止や延期に伴う『キャンセル忘れ』がなくなった」などの声もあるという。

長時間労働の予兆は自動アラームで上司に


 柔軟な働き方として、テレワークも推進している。19年3月の時点で47拠点のサテライトオフィスが使用可能、月間1、400回の利用がある。在宅勤務も1日単位の取得から時間単位に変更したことで月間500回の利用があるという。

 同社では18年度、長時間労働の是正に力をいれた。働き方の課題ごとに解決策をまとめた『働き方ソリューションマップ』や各種勤務制度を分かりやすく解説した『働き方のハンドブック』を使って、一人ひとりが主体的に働き方改革を実践することが可能な施策を推進している」という。

『働き方ソリューションマップ』は長時間労働が発生する原因や課題、解決策をすべて書き出し地図のように関連性をつなげたもの。同社の人事労務担当者が長時間労働発生職場のヒアリングを通じて、課題と解決手段を一覧に纏めたオリジナルだ。

 「具体的な解決手段を提示して実効性のある対策を確実に実施する」という。あわせて19年4月施行の働き方改革推進法への対応として新たに導入したのは「労働時間管理ツール」だ。同社では社員一人ひとりに、「勤務システムへの日々登録」を促している。

 労働時間管理ツールでは、この勤務システムと日々連携し、時間外労働の閾値に達しそうな社員や、年休取得が少ない社員のアラーム情報を管理職に公開し、さらに該当者の直属上司や上位上長にはRPAを使って自動でアラーム通報する。

 「時間外労働や年休行使状況をタイムリーに見える化することにより、管理職がきめ細やかな労働時間管理が出来るようになり、長時間労働の是正につながった」という。

 このほかにも社員からの給与や勤務、旅費、社会保険に関する質問にも24時間365日自動で応答する「問い合わせチャットボット」を導入したほか、「がんと就労セミナー」を全国22拠点で実施し、二人に一人はがんになる時代に対応した働き方を提案するなど、日々の業務における不安の解消を支援する。

 さまざまな取り組みの成果として、12年度は1人あたり年間2、085時間だった総労働時間が18年度は1、958時間に減少。年休取得も年間13・4日から17・9日に増加している。

 金森センタ長は「社員が働きがいや生きがいを感じて、いきいきと最大限の力を発揮することが企業の発展や生産性向上につながる。今後はICTのさらなる活用と付加価値を高める働き方を継続推進し、お客さまとともに価値を創造するデジタライゼーションパートナーとなることをめざして、世の中の変化に柔軟かつ迅速に適応できるマインド・スキル・ナレッジを有する人財の育成に力を入れたい」と話す。

世代を超えてワクワク感を共有するeスポーツ


 コンピューターゲームの対戦をスポーツ競技として捉える「eスポーツ」で社内のコミュニケーションを活性化する取り組みは同社が日本の企業に先駆けて実施している。19年2月や8月には社内でeスポーツ大会を開催し、世代や組織を超えた交流を促進。同社文化体育クラブeスポーツ部の杉山治部長は「働き方改革など企業活力向上施策の一環」と話す。

 19年10月に開催される「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKI」への出場を目標の一つとして、18年10月にeスポーツ部を新設した。

 現在33人の部員が所属する。同eスポーツ部の発起人は北野昌宏社長。「eスポーツはだれもが楽しめる。若い人ともワクワク感を共有できる」とコミュニケーションツールとして有用性を語る。

 同社の社内eスポーツ大会でも、北野社長が若手社員とコナミデジタルエンタテインメント(東京都港区)が提供するサッカーゲーム「ウイニングイレブン2019」に興じる姿が見られた。

 社外との接点の増加もeスポーツの魅力の一つだ。同社の大会にはRPAツールを手がけるUiPath(ユーアイパス、東京都千代田区)や制御盤メーカーの三笠製作所(愛知県扶桑町)が参戦した。日立グループや日立システムズグループでもeスポーツ部の立ち上げを模索している企業があるという。

 杉山部長は「当社は社長が部員の一人として参加しているという強みがあるが、裾野が広がってきたのは確か。社内外のコミュニケーションに変化をもたらす波及効果がある」と今後の広がりを期待する。

 働き方改革は多くの企業にとって大きな経営課題。それぞれの会社に適した取り組みを見つけ、推進することで大きな前進や効果が期待できる。

まだまだ知りたい日立システムズの働き方

 

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