年功序列型から転換、国立大で進む人事給与改革

新年俸制は4月から12大学が導入

 国立大学教員の人事と給与の改革が、多面的な切り口で進んでいる。人件費の予算比率は大きく、研究力強化や教育活性化に影響する。文部科学省がこのほど公表した運営費交付金の傾斜配分でも、各大学の人事給与マネジメント改革の進捗(しんちょく)状況や若手研究者の比率が、評価対象となった。また文科省が促す新年俸制は4月から12大学が導入。「業績評価と処遇への反映」で、どれだけメリハリを付けるかが次の課題となりそうだ。(文=編集委員・山本佳世子)

教員ポスト、学長裁量に


 教員のポストは通常、学部で管理する。しかしトップマネジメントにより学部からポストを集め、大学全体の戦略に沿った人材採用に使う「学長裁量ポスト」を作るケースが近年、増えている。運営費交付金削減で教員の定員削減に踏み切る大学も少なくないが、その中での活性化策に使われる。

 埼玉大学の場合、18歳人口の減少を受けて教育学部の学生定員を削減し、合わせて同学部の教員ポストを学長裁量に転換しつつある。「大学の研究力強化のために理工系の教員ポストを増やすことに回したい。各学部の教授会で私自身が説明して回っている」と山口宏樹学長は全体の理解を得るべく努力を重ねている。

 また埼玉大はこの学長裁量ポストを順繰りに貸し出すことで、学内で奨励する若手や理系女性の採用を後押しする仕組みを始めた。定年退職と後任補充の時期に先立って、部局(学部など)がポストを借りて雇用すると、一時的に教員が増える形となり活性化する。それが多様な人材を雇用する部局のインセンティブ(意欲刺激)になる。2019年度から計6人分での適用を実施・計画している。

 複数の研究機関で教員を雇用するクロスアポイントメント制度も、著名教員に複数の研究機関で活躍してもらうなどの手法として増えている。ユニークな例としては、お茶の水女子大学と東北大学のケースで、多様性の拡充と研究力の強化などで7月に協定を結んだ。

 東北大はお茶の水女子大の理学部や生活科学部に、工学や情報の教員3人を派遣する。逆にお茶の水女子大は東北大に「女性の視点が重要な分野」(森田育男理事)として進化生物学、建築学、心理学で3教員を送る計画だ。

中小規模の大学がリード


 国立大の常勤教員の給与は一般に、法人化前からの国家公務員の俸給表に準じて等級・号俸で決まり、「月給制」で払われる。これに対して業績に連動させ、金額を大きく上下させられるのが「年俸制」だ。

 今年度から始まった新年俸制は退職金は別枠で用意したまま、通常の年収分を強く業績連動させるものだ。「新規採用は原則、これで対応し、将来は全教員に適用する」(文科省・高等教育局)方針だ。

 従来の月給制では年間の給与は「基本給(俸給月額の12カ月分)+賞与(ボーナス、期末・勤勉手当)+諸手当」だった。年俸制では「基本給+業績給+諸手当」となるのがモデルだ。基本給・業績給の比率や、業績の反映方法は、各大学に設計が任されている。もっとも業績評価に連動した処遇自体は、賞与に反映させるなど導入済みの大学が多い。研究・教育分野や人数が限定される中小規模大学の方が進んでおり、年俸制へのシフトもスムーズだ。今回、新年俸制を導入したお茶の水女子大はその一つだ。

 お茶の水女子大は研究、教育、社会貢献・産学官連携、国際交流、大学運営など多項目の評価の仕組みを確立。「文系理系で異なる論文の重視度は、係数をかけて公平感を持たせ、すでに全教員に適用している」と森田理事は説明する。その上での年俸制は翌年の年収が、評価により最大120万円の差がつくという。

中小規模の動きやすさを生かして改革を進めるお茶の水女子大(同大提供)

 一方、埼玉大は業績評価を賞与に反映させているが、新年俸制については様子見だ。山口学長は「これまで以上にメリハリを付けるのなら、マイナス査定となる教員の問題が大きく、簡単には進められない」と悩む。東京工業大学の益一哉学長も「業績トップ層を後押しする議論は大事だ。しかし大半を占める中間層で厳格に差をつけるべきではない」と慎重だ。

 従来の仕組みでは賞与すべてを業績評価分に当てても、業績連動分は給与全体の2割程度だ。それだけに、基本給に対する業績給の比率を大幅に高める大学が出てくるかどうかに、関心が集まりそうだ。

●人事給与マネジメント改革:国立大学の人事と給与の仕組みを、年功序列の公務員型から転換するもの。「業績評価と処遇への反映」と「新年俸制の導入」のセットが目玉だ。これまで教員の研究能力など確認してから採用する「テニュアトラック制度」や、複数の研究機関(企業含む)で教員を雇用する「クロスアポイントメント制度」などを進めてきた。各国立大は全体をマネジメントして、人材の多様性や流動化を進めることが求められている。大学構成員の雇用不安定さを抑えつつ、研究・教育・社会貢献の活性化を導くことが必要だ。


Data/今年度からの新年俸制、12大学が導入


 年俸制の導入は新規の教員採用を中心に5年ほど前から始まった。転換を推進するため、退職金分を分割前倒しで給与に上乗せする仕組みだった。

 86国立大と自然科学研究機構など四つの大学共同利用機関の計90法人のほとんどが導入済みだ。文科省の17年秋のアンケートでは、効果として「業績反映の適正化」を60法人、「優秀な教員の確保」を48法人、「学内組織の活性化」を26法人が挙げた。

 18年5月1日での適用者数は1万5000人超だ。本務教員の約4分の1を占めるまでになっている。年齢層別で見ると、旧来の仕組みで採用されたままの50歳前後の中間層で適用が少ない。若手は、運営費交付金削減で人件費を抑制するため、任期付き採用が急増したことが影響している。65歳の定年退職以後は年俸制が普通で、それ以前に転換する年長者もいる。

 しかし退職金分の上乗せという財政対応では、さらなる拡大が難しい。そのため通常の年収の中で強く業績連動させるのが新年俸制だ。文科省が19年2月に通知したガイドライン(指針)に沿って、予想より多い12大学が新年度から導入した。

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日刊工業新聞2019年8月16日

山本 佳世子

山本 佳世子
08月18日
この記事のファシリテーター

プロ野球選手などをイメージする「年俸制」は響きが強く、急進的な大学改革派が好んで使い、言葉が一人歩きしている面がある。実際は、退職金は用意されていることと合わせて、通常の企業と同程度の「業績評価と処遇への反映」を進める、というところだ。研究など創造的な仕事をする職場だけに、あまりキツキツとした評価は適さない。ただ「特別な成果を上げた人は+評価」「手抜きが著しい人は-評価」という仕組みがあれば、どの教員もそれなりに納得して心やすく、自らがすべきことに集中できるのではないかと思う。

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