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中小企業の景況感は?経営者の生の声、声、声・・

9月に上昇見込むも、中国経済の減速が大きなリスクに
 商工中金が26日発表した8月の中小企業月次景況観測によると、中小企業の景況判断指数は、製造業・非製造業を合わせた全産業で、前月比0・5ポイント悪化の48・8にとどまった。商工中金調査部では「景況感の足踏みは続くが改善に期待」とみており、夏場に一時的に落ち込んだ製造業の需要回復などを理由に、9月は全産業で50・1と上昇を見込んでいる。全産業で50を超えれば、消費増税前の駆け込み需要があった14年3月以来となる。
 
 8月は、非製造業が前月比1・4ポイント改善し2カ月連続で上昇。「好転」「悪化」の分かれ目である50を超え、51・1だった。訪日観光客増に伴う飲食・宿泊業の好調が際立っている。ただ、製造業は繊維を除くすべての業種で景況感が悪化。前月比2・9ポイント低下の45・9で、3カ月ぶりに悪化した。

 懸念されるのは親企業が下請け企業との取引価格に原材料価格の上昇分などを上乗せする「価格転嫁」が進んでいない現状だ。調査では仕入れ価格が「上昇」と答えた企業割合から「下落」と答えた企業割合を差し引いた仕入れ価格DIは、「上昇」超幅が縮小した一方で、販売価格は「下落」の企業割合が「上昇」を超えている。採算状況や資金繰りも「悪化」超幅が縮小しているが、DIはマイナスが続いている。

 同調査は商工中金と取引がある1000社(製造業450社、非製造業550社)を対象に8月上旬に実施。回答率は100%。

「リーマンに似て嫌な感じ」「影響限定的」悲観と楽観が交錯


 中国経済の減速に端を発した日中の株安と為替の円高基調を受け、景気減速を懸念する中小企業の声が広がり始めた。中国経済の減速が本格化し、設備投資が落ち込みかねないとして不安材料になっている。個人消費の冷え込みを不安視する見方もあり、日本政府に景気対策を望む声も出てきた。一方、株価下落は一時的な調整局面とみて、現時点で直ちに自社への影響は少ないとの予測もある。各地の中小企業経営者に聞いた。

  バイオマテックジャパン・工藤義昭社長(北海道釧路市、健康食品向け素材製造)
 中国の対応で変わるが、15年度いっぱいは持ち直すのが難しいのではないか。今は影響は出ていないが心理的に消費者の購買意欲低下が懸念される。健康食品は早めに需要減の影響が出てきてしまう。長期的には自衛手段は考えておかないといけない。
 
 東光鉄工・虻川東雄社長(秋田県大館市、鋼構造物の設計製作)
 日本経済が疲弊すると困る。中国経済が減速すると様々な業種が影響を受け、回り回って中小企業にも影響する。国は新しいビジネスモデルや本当に伸びる成長産業関連の支援にもっと力を入れてもらいたい。
 
 水沢鋳工所・及川勝比古社長(岩手県奥州市、鋳造業)
 今後、産業機械鋳物も工芸品鋳物も影響を受けるだろう。特に南部鉄器の産地として、外国人観光客の『爆買い』がなくならないかと危惧している。報道されている大企業の業績好調は、中小企業には浸透していない。何らかの景気対策をしてほしい。
 
 白相酒造・白相淑久社長(栃木県那珂川町、酒類製造)
 食品企業では株安による消費マインドの冷え込みが懸念される。嗜好(しこう)品の酒類には影響が大きいとみるが、純米酒などのハイエンド品は消費層が固定化しているため落ち込みは限定的と考える。
 
 日本電鍍工業・伊藤麻美社長(さいたま市北区、メッキ加工)
 中国、インドなどに市場が集中してしまっている。どういった形で資金を循環させるかを考える時期だ。何が起きても揺るがないような体質作りや、市場の分散が必要だ。
 
 大森機械工業・大森利夫社長(埼玉県越谷市、包装機械製造)
 震源地となった中国は、経済的な危機局面での経験が希薄だ。民間主体の資本主義経済を先導してきた米国や日本と共同で、この局面を乗り切ってほしい。
 
 中川製作所・一色譲社長(埼玉県蕨市、紙加工品製造)
 個人投資家の動きを反映している部分が大きく、反応は過剰にも思える。当社でも即座に対応するというよりは、まずは株価だけでなく米国の利上げへの影響や日本企業の動向を注視したい。
 
 エイアンドピープル・浅井満知子社長(東京都渋谷区、翻訳事業)
 お客さまの予算緊縮、海外投資家の日本市場撤退などが予想される。IR書類などの翻訳はニーズが減る。利益が伸びにくくなるのではと懸念している。
 
 田中電気研究所・田中敏文社長(東京都世田谷区、環境計測機器製造)
 中国の景気減退を懸念する声が多いが、今回の事態は短期的なもの。製造業にも仕事が戻りつつあることから、設備投資を手控える動きは少ないと考える。急激な円高は歓迎しないが、1ドル=115円程度なら製品輸出や輸入資材調達にも心地よいレンジではないか。
 
 メトロール・松橋卓司社長(東京都立川市、工業用センサー製造業)
 中国の実体経済は年明けから変調の兆しをみせていた。中国株安は実体経済を反映した動きとみるべきだ。ただ、今は調整局面で年末にかけて市場は回復していくだろう。
 
 吉野化成・吉野孝典社長(東京都八王子市、マスカー・マスキングフィルム製造業)
 原材料を輸入しているが、為替が円高に振れれば値下げを要請される。逆に円安で調達コストが上昇しても、値上げは受け入れてもらえない。株価も外国為替も安定が望ましい。
 
 ポリテックジャパン・藤田道隆社長(横浜市港北区、ドイツ製振動計測装置販売)
 輸入価格が高騰すると厳しいが、顧客の自動車業界には円安が進むと輸出が増える。トレードオフの状態だ。政府は「3本目の矢」(民間投資喚起)で、医療や航空宇宙など重点投資業種を明確化する必要がある。
 
 サンシン・細貝信和社長(新潟県長岡市、テープ研磨機製造)
 08年秋のリーマン・ショック時と異なり、日本企業は不況に対する体制づくりができている。当時のようなことにはならないと思うが、中国の状態がこのまま続けば人民元ショックで大変なことになる。
 
 TRINC・高柳真社長(浜松市西区、除電機器製造)
 現在の株価下落は一時的で、年末に向けて上昇基調になるだろう。国内企業の設備投資意欲の回復と、米国経済がしっかりしているためだ。現政権には今の経済政策の継続を望む。
 
日刊工業新聞8月27日付総合4面
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
今回の株安でアベノミクスの「賞味期限切れ」さえささやかれる中、地方企業や中小企業の景況感がこのまま回復しなければ、アベノミクスの恩恵どころか波及しないまま終わってしまう事態が懸念されます。

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