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猫の健康を守りたいなら、まずはトイレをのぞいてみよう

とびだせアニマルテック #1 toletta
猫の健康を守りたいなら、まずはトイレをのぞいてみよう

toletta(トレッタ)

 大切な猫が具合悪そうにぐったり…動物病院に連れて行ったら「普段の体重は?」「おしっこの回数・量は?」と質問された。これに自信を持って答えられる飼い主は何人いるだろう。
 ハチたま(神奈川県藤沢市)はIoT(モノのインターネット)を搭載した猫のトイレ「toletta(トレッタ)」を製造・販売している。代表の堀宏治社長はもともと人間向けのヘルスケア事業に携わっていたが、東日本大震災でペットが厳しい環境に置かれた状況を目の当たりにし、「IT×ヘルスケア」でペットの健康を守るための起業を決意。ペット向けの事業をいくつか展開している中で猫の健康管理には排泄チェックが重要だと知り、トレッタを開発した。
 「『ねこが幸せになれば、人はもっと幸せになれる。』これは当社の企業理念です。ねこの幸せとは、健康に暮らすことだと思います。トレッタには、ねこの健康を通じて、もっと人々を幸せにしたいという思いを込めました」(堀社長)。
 

“猫のため”一緒に育てる


 トレッタは二層式の構造になっており、上部のトイレ部分はすのこ状で、尿は下部のペットシーツに落ちる仕組み。下部はセンサーが搭載されており、猫がトイレに入った時に体重を計測するほか、尿の回数を測定する。またカメラが取り付けられている点も大きな特徴だ。猫を複数頭飼っている場合、どの猫がトイレに入ったかを区別する必要がある。首輪の装着による個体管理も考えられるが、トレッタは猫の顔認識で区別している。「首輪を嫌がる猫も多く、首輪をつけることでの皮膚の病気リスクにも配慮しました」(最高マーケティング責任者の松原あゆみ氏)。
 またカメラでは猫の写真も撮影し、体重やトイレ回数のデータとともにアプリで確認できる。これが飼い主に好評で、「いままで見たこともない表情をしている」とSNSでの拡散にもつながった。

カメラで撮影した猫の様子


 1台24,800円(税別)で販売しており、月額アプリ利用料などはかからない。2018年8月から事前注文受付をスタートし、1,000台以上の注文があった。同年11月に出荷する予定だったが、量産の過程で試作機では見られなかったハードウエアの構造上の欠陥が発覚。「もともと『尿量計測機能』も搭載する予定でしたが、この欠陥により量産機では尿量がうまく測れないことがわかったんです」(松原氏)。
 出荷の見込みが立たなくなったことを顧客に知らせ、たくさんの注文キャンセルも想定していたというが、キャンセルは2割ほどにとどまった。「出荷遅延という状況の中でも楽しみに待っていてくれるお客さまが多く、“猫のためなら”と今までにない製品を一緒に育てていこうという気持ちでいてくれたのではないでしょうか」(松原氏)。問題が発覚してから受注を停止していたが、100人近くがウェイティングしていた。
 そして2019年2月末より尿量計測機能を付けずに初回受注分の800台の出荷を開始し、4月からは受注も再開。追加で300台を出荷した。今秋には尿量計測機能が追加されたバージョン2が完成予定で、まずは販売済みの顧客のセンサーユニット交換を進めるとともに数千台を順次生産し、販路開拓も行っていく。

早期発見が難しい「死因第1位」


 しかし、開発が困難な尿量計測になぜこだわるのか。それは猫の死因第1位が「慢性腎不全」という腎臓の病気だからだ。この病気になると尿量が増えて体重が減る。食生活も関係しているが、加齢によりリスクが徐々に高まっていく。初期段階で発見できればフードや薬で治療できるが、早期発見が難しく嘔吐や食欲不振などの症状が出た時にはすでに手遅れということも多いという。失われた腎機能は再生できず、日々の排泄・体重のチェックや食事管理が大切だ。
 トレッタの開発段階では尿量計測機能は考えていなかったというが、こうした情報を獣医師から聞き搭載を決めた。「初期で見つかるのと進行してから見つかるのとでは余命が3年違うといわれています。人間の寿命に換算すると20年近くの差になります」(松原氏)。

アプリ画面

 現在はデータの可視化までだが、今後は大量に集まったデータを分析し、重大な変化を見落とさない表示方法や、獣医師との連携機能も追加していきたいという。より猫の行動解析につながる排泄時の動画撮影も検討中だ。「最終的に目指しているのはトイレという製品を売ることではなく、猫の生活や健康管理をサポートすること」(松原氏)。
 そのための啓もう活動も積極的に行っている。保護猫のイベントに協賛しブースを出展したり、新設した神奈川県動物愛護センターへネーミングライツ取得による支援を行ったりと動物愛護活動にも取り組んでいる。オフィスでも2頭の元保護猫が暮らしている。

オフィスでは2頭の元保護猫が社員と一緒に過ごしている
 
 「世界のペット市場は年間5%の成長率で伸びています。特に、飼育の効率化が注目されている今、データやAIを活用した新しい製品や良いサービスを生み出しやすい環境にあります」と松原氏は話す。また海外ではスマート首輪などの犬向けIoT機器は増えているが、猫はまだ少なくトレッタのような二層式のトイレ自体がほとんど使われていないといい、今後は海外市場も狙っていく。

松原あゆみ氏


【連載】とびだせアニマルテック
 さまざまなサービスや製品が登場しているアニマルテック。ニュースイッチ編集部員それぞれが注目したアニマルテックを紹介していく連載です。
ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
猫の健康のためにフードなどに気を遣う人は増えていますが、病気にいち早く気づくことも重要です。高齢猫だけでなく、生まれつき腎機能にリスクを抱えている猫もいるので、若いからといって油断はできません。 実家でも猫を飼っており、もうすぐ13歳になります。長生きしてほしいので健康にはしっかり気を付けないとな、と改めて思いました。

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