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低下する研究力の強化へ、有効な政策は“研究費で研究時間を買う”!?

「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」(仮称)を年内策定
低下する研究力の強化へ、有効な政策は“研究費で研究時間を買う”!?

研究者が研究に費やせる時間を増やす仕組みが注目される(イメージ)

 内閣府が研究開発の強化で素案をまとめた「統合イノベーション戦略2019」の新規項目で目を引くのは、研究力向上に向けた各府省庁の施策を客観的に見直す「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」(仮称)を、年内に策定することだ。文部科学省がまとめた「研究力向上改革2019」がそのたたき台になる。“研究費で研究時間を買う”ことで、研究者の研究専念を後押しする業務代行の人件費などだ。優れた取り組みを全府省庁に広げることなどで長年の課題解決に挑む。(編集委員・山本佳世子)

施策を一覧化


 日本の研究力低下の要因は複雑に絡み合い、関係省庁の個別対応では解決できない。そこで同パッケージでは研究力向上に向けた大・中・小で関連付けた各府省庁の目標や施策を、政府全体の一覧表にする。これで「欠けている手だてや、効果がなく削るべき事業などが見えてくる」と内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の上山隆大議員は強調する。

3つの改革


 土台になるのは文科省が4月にまとめた研究力向上改革だ。研究の人材、資金、環境の三つの改革を大学改革に絡めた。特に研究現場で影響が大きいのは、海外で「バイアウト制」と呼ばれる“研究時間を研究資金で買う”仕組みだ。

 研究者の「研究に専念したい」という思いに対し、近年は研究報告書や医学系の実験計画書・倫理審査申請書の作成などが増大している。そこで研究以外の業務の代行人件費を、競争的資金の直接経費から出そうとしている。大学院生にデータ整理を、退職教員に講義をそれぞれ頼むケースも対象になる。

選択肢増やす


 競争的資金のプロジェクトで雇用される博士研究員(ポスドク)が、プロジェクト以外の独創的な研究を一部、行える仕組みも有望だ。文科省事業の「COIプログラム」では、エフォート(勤務時間配分)の2割程度で認め、効果を出している。また企業などから大型の競争的資金を獲得した年長の研究代表者は、直接経費から本人の人件費を払えるようにする。その分、国立大学に配分される運営費交付金は別の使い道ができる。

 文科省はいずれも20年度からの実施を掲げる。強制ではなく「研究成果を出すために、選択肢を増やす」(上山議員)もので、他府省庁への拡大でも反対は少ないと見られる。同パッケージの要として注目されそうだ。

               
日刊工業新聞2019年6月18日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
上山議員は「見える化をしたい」と口にする。国立大の運営費交付金の中身(なぜ、それだけの額が必要かという根拠)もそうだし、今回出てきた役所の事業の評価もそうだ。役人は政策を作る立場だけに、事業がうまくいかなかったとしても失敗を認めづらい。もっともこれは役人に限らず、だれでもそうだろう。そのため将来は、政府事業の評価を外の専門家で行うべきだと上山議員は考えており、「研究力強化…のパッケージは、それに向けての一里塚」だという。取材では運営交付金の見える化についても聞いており、次の記事でこれを紹介したい。

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