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鴻海との交渉を始めた人、嫌がった人、停滞させた人、再開する人

シャープ歴代4社長― 経営再建で「時間はコスト」という自覚はあったか
鴻海との交渉を始めた人、嫌がった人、停滞させた人、再開する人

左上が町田氏、右上は高橋氏。下段は左から片山氏、奥田氏。


テリー・ゴウが会見をドタキャンした日


日刊工業新聞2012年8月31日付


 台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業とシャープによる資本提携の条件見直し協議がヤマ場を迎えた。30日に共同運営の堺ディスプレイプロダクト(SDP、堺市堺区)を訪れた鴻海の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長が会見し、方向性を示す予定だったが急遽変更になり、代理の鴻海幹部が「結論が出る前に対外的なコメントは控える」と説明し、31日以降に持ち越した。シャープの経営再建は鴻海との提携に基づく液晶、テレビ事業の立て直しが欠かせず、交渉の行方が注目される。

 SDPには100人規模の日本、台湾メディアが集まったが、工場見学を終えた郭台銘董事長は、会見場に姿を現さなかった。ただ、鴻海グループの戴正呉副会長が「どのようにシャープの業績を改善していくかに焦点は絞られている」と述べ、「長い目で見て有効な関係を築いていきたい。できるだけ各方面でサポートする」と協力関係を維持、拡大する意向を示した。

 鴻海とシャープは3月に資本・業務提携を結び、鴻海がシャープ本体に9・9%を出資することを決めた。しかし、発表前日に474円だったシャープの株価は、構造改革の内容や提携効果が不透明なことなどから下降線をたどり、一株当たり550円としていた出資条件の見直し協議を進めている。

 シャープは今期4000億円の財務体質改善を計画し、その中には鴻海への第三者割当増資で調達する669億円を含む。シャープは鴻海の出資比率を当初予定の10%以下に抑える考えを示しており、出資減額による不足分は資産売却や売掛債権の証券化、設備投資圧縮などで補う方針。

 鴻海が出資比率引き上げを望むならそれを飲むしかない

 鴻海との提携は経営再建の柱。実現しなければ、SDPの共同運営を含む液晶事業の業務提携の枠組みも不透明になる。2000人程度の希望退職を含む5000人規模の人員削減を予定しているが、銀行関係者の一部には「評価していない」との声もあり、来年9月に2000億円の転換社債償還を控える中で「今期の業績次第で、今見えている以上の資金支援をしないといけなくなるかもしれない」と不安視する向きもある。

 シャープは下期に営業利益300億円を見込んでいる。鴻海との提携交渉が難航し、業績にも黄信号が灯れば、現状の再建シナリオは崩れる。シャープが否定する事業売却を含め、銀行主導による大規模リストラに迫られる恐れはある。「鴻海が出資比率引き上げを望むなら、それを飲むしかないだろう」(金融関係者)との見方もある。

 赤字の元凶となった大型液晶事業は鴻海との共同運営に切り替わり、SDPの生産量の半分を鴻海を引き取ることで、当面安定稼働が期待できる。だが、在庫圧縮が進まなければ、大幅値下げを余儀なくされ、採算改善はおぼつかない。

 将来の収益源となるはずの中小型液晶も亀山第2工場(三重県亀山市)が低稼働にあえぎ、“鴻海頼み”の顧客開拓に命運を託しているのが実態だ。利益を生み出している白物家電や事務機器などの事業規模は小さく、足元の経営を支えるには至っていない。郭台銘董事長に揺さぶられる中、奥田隆司社長らシャープ経営陣は落とし所を見つけられるか。残された時間は限られている。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
液晶事業を分社する時点で、どこかスポンサーを見つけるのは当然の流れ。「鴻海一択」ではなく、交渉再開の事実上のアナウンスは産業革新機構なども含めた条件闘争だろう。 前にも何度か指摘したが、3年前の鴻海との提携破談がシャープ再建への最大の分岐点だったと思う。どこかの朝ドラではないが、「逆回転」はもうできない。が、「再生」は可能である。

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