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旭化成も住友化学も…広がるAI活用の素材開発の効果

「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」の導入を拡大
旭化成住友化学は、人工知能(AI)を用いて素材開発を効率化する手法「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」の導入を拡大する。2019年度からの中期3カ年計画で、住友化学は全事業領域でMIを活用できる体制を整備。旭化成は研究開発だけでなく、顧客と接する営業ともMIで連携を始める。競争力の根幹を支える研究開発をデジタル技術で変革する。

 MIは化学構造や生産時のレシピと製品特性の関係をAIに学習させ、これをもとに目的の特性を持つ素材を推測し、開発のスピードを速める。業界でもっとも注目される技術の一つ。すでに実用段階に入っており、両社は数年内にMIを開発プロセスに利用した素材の量産を始める。

 旭化成は現在ほぼ全ての材料開発にMIを活用。次の段階として営業部門が持つデータや市場調査データをMIのシステムと接続し、素材の開発スペック決定のプロセスを効率化する。

 例えば、営業担当が顧客のニーズをMIのシステムに入力し、開発をシミュレーションする。提供可能かどうかや、既存素材の若干の改良で対応できるかなどを顧客へ早く回答する。これを一部事業で試行しながら、全社の利用可能なデータを調査し、整備する。

 また市場調査データなどを使い、自動車など顧客業界の変化が求められる素材の特性にどう影響するかをMIでわかるようにする。

 中期3カ年で、AIの一種である機械学習初級の知識を持つ人材を約500人育成し、一連の取り組みを後押しする。簡単なプログラミングができ、AIを使いこなし、専門家と意見交換できる人材で、研究開発部門以外からも育成する。

 住友化学は有機ELやフォトレジスト材料で先行するMI導入を全事業領域へ拡大する。今後3年間で実験データや論文からMIに必要なデータベースを整備し、MI導入の下地をつくる。人材面では、各研究領域にMI活用を先導する「データエンジニア」を50人程度育成する。各研究所に数人とする。

 AIプログラムを構築できるデータサイエンティストに対し、データエンジニアは開発されたAIの導入効果をフィードバックして開発に協力する。また全研究者がAIを利用できるように、他の研究者への教育も担う。「将来は全社員がMIを使えることを目指す」(住友化学担当者)。なお、製造部門も含め全社ではデータエンジニアを合計150人、データサイエンティストを20人育成する。

 三菱ケミカルホールディングス三井化学もMIに取り組んでおり、大きなトレンドとなってきている。

<関連ページ>
「野武士」旭化成、競合他社からの嫉妬も
日刊工業新聞2019年5月13日

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