企業からの大型資金獲得が命題、動き出した大学内「新機構」の仕組み

外部人材活用や教員評価などを絡ませた大学改革としても注目

 産学共同研究で大型の企業資金を引き出すために、大学内に企業出身者の集団を据えた「オープンイノベーション機構」(OI機構)が動きだした。慶応義塾大学は強みの医学系に、金融業界出身の統括クリエイティブマネージャー(CM)を組み合わす。山形大学は有機材料に特化して設備も人もそろえてきた実績を核に、研究型大学とは異なる意識で取り組む。産学連携によるイノベーション創出に、外部人材活用や教員評価などを絡ませた大学改革としても注目される。(文=編集委員・山本佳世子)

 日本の産学共同研究は一般に基礎研究が対象で、企業から得る共同研究費は1件200万円程度が多かった。企業にとっての“非競争領域”で、業界共通の産学共同体(コンソーシアム)も盛んだ。

 これに対してOI機構が掲げるのは、1企業の戦略事業に当たる“競争領域”での規模の大きい応用開発だ。ここ数年のイノベーション創出に向けた官民連携で、日本の産学連携の問題点が解消されれば、大企業が1件数千万―数億円の資金を大学に投入する流れが生まれている。

 しかし日本の大学は、世界中の企業を引き付ける米国一流大学などと比べ、組織的な集中支援、スピーディーな対応、ニーズ志向、研究成果創出の約束などが欠けている。課題解決に向けて、文部科学省は2018年度新規の「OI機構の整備事業」を始めた。キーとなる統括CMをはじめ、各プロジェクト担当や知的財産、財務などの各CMを産業界出身者で固めて対応する。文科省科学技術・学術政策局の西條(にしじょう)正明産学連携・地域支援課長は「コストセンターだった産学連携を、OI機構によってプロフィットセンターに変える」と力説する。

 もっとも大型案件は、非競争領域での活動から生まれてくることが少なくない。そのためOI機構と二人三脚ながら、全学の案件を扱う産学連携本部向けに、文科省事業「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム」(OPERA)を連動させる。OI機構の事業採択8件のうち半分がOPERAとの連動だ。多企業や1企業と連携の形を使いわける“オープン&クローズ戦略”が、大学にも求められる時代となっている。

慶大、医学部の強み活用


 医学部と産業界の人脈という、他大学がうらやむ強みを生かして動きだしたのは慶応義塾大学だ。同大のOI機構「イノベーション推進本部」の杉山直人統括CMは銀行出身で、旧産業革新機構の専務も務めた。他大学の統括CMは技術系出身の事業経験者が多い中で、異色の存在だ。

 杉山統括CMは「多様な業種を相手にしてきた経験から、連携企業の中期計画に基づく事業戦略に対し、『大学のシーズで手伝えますよ』と提案ができる」と強みを説明する。慶応義塾の青山藤詞郎常任理事も「新事業に資金投入する上での目利きのプロだ」と期待を寄せる。

 同大医学部は異業種企業からも大型投資を獲得するパワーがある。先行例が化学会社JSRとの連携だ。同社の寄付による「JSR・慶応義塾大学医学化学イノベーションセンター」(JKiC=ジェイキック)で、再生医療や腸内細菌など多様な共同研究が動いている。事業化を見据えて他企業を巻き込みたい案件も出てきた。特許などきっちり管理しながらのオープン&クローズ戦略を進めるのに、OI機構の出番となる。同大のOI機構は研究プロジェクトだけでなく、ベンチャー起業や特許ライセンスでの事業化にも目を配る。適切な形態に絞り込むため、杉山統括CMは市場ニーズ調査や、特許譲渡の対価試算など投資効果を評価するフローチャートを用意した。

 OI機構の支援テーマは理工学部を中心とするスマート社会も対象だ。同学部では外部資金で家賃を払う追加スペースの活用が進んでおり、この仕組みを拡大する。さらに定年延長など人事面も工夫し、産業界を引き付ける教員の活躍を後押しする。

山形大、試作設備で大手メーカー魅了


 分野特化の拠点構築に10年をかけ、OI機構につなげた地方大学の星は山形大学だ。当初の強みは有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)くらいだった。しかし今は有機エレクトロニクス材料―プロセス―デバイス―製品―システムと、川上から川下までカバーする“有機材料システム”に広げている。

 学内資金の集中投下に始まり、いくつもの国の補助事業の採択、これを活用した施設や設備、同分野の研究者150人体制と進めてきた。プロセス評価やデバイス試作の設備を有する同大は、これらを持たない大手材料メーカーを引き付ける。

 この結果、年間の産学共同研究費は約9億円、うち9割を同分野で稼ぐ。2億円程度が多い他の地方国立大に差をつけ、ランキングで同大は研究大学グループのすぐ後に付ける。

 同大のOI機構「オープンイノベーション推進本部」で強化を図るテーマはインクジェットプリンター、3Dプリンター、印刷エレクトロニクスなど。統括CMには、22社を相手に年7000万円の資金を獲得する酒井真理同大インクジェット開発センター長が就いた。セイコーエプソン、東京大学での大型研究プロジェクトや国内外企業との事業開発で経験が豊富だ。

 さらに事業CMも、コニカミノルタやパイオニアの出身者でそろえた。

 同大の高橋辰宏有機エレクトロニクスイノベーションセンター長は「博士研究員を雇用して取り組む競争領域は、基礎研究重視の研究大学ではない本学にぴったりだ」と力説する。論文重視の研究大学では難しい、教員評価における特許出願や事業化実績の活用も手がけている。人事給与マネジメントに関わる部分だ。大学の個性を生かした産学連携、そして大学改革に期待が集まりそうだ。
                        


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日刊工業新聞2019年5月8日

山本 佳世子

山本 佳世子
05月10日
この記事のファシリテーター

わかりにくいな、というのが2年弱、構想段階からOI機構を取材してきての感想だ。そのため記事では「1企業の事業戦略に沿った応用分野の大型産学共同研究を手がけるのがOI機構。基礎分野や小規模な共同研究は、従来の産学連携本部が担当する」と平たく表現した。特定企業の秘密事項にも大学が触れるだけに、社会発信する意識が抑えられるのかもしれない。ただ文科省の支援事業だけに、社会の理解を得る努力は欠かせない、と関係者には意識してもらいたい。

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