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ビール出荷の“かき入れ時”到来!各社の戦略は?

ビール出荷の“かき入れ時”到来!各社の戦略は?

「アサヒスーパードライ ザ・クール」で新しい飲用シーンを提案

 夏の需要最盛期に向けてビール大手各社による販売合戦が盛り上がっている。アサヒビールが主力ビール「スーパードライ」の再活性化を打ち出し、キリンビールは「一番搾り」「本麒麟」など重点ブランド強化を進める。サントリービールは“神泡”で主力ビール「ザ・プレミアム・モルツ」を拡販。サッポロビールは「黒ラベル」「ヱビス」などビール中心に力を入れる。各社各様の戦略でしのぎを削る。

 ビール需要の最盛期は7―8月だが、気候が暖かくなる5月のゴールデン・ウイーク頃から大きく増えていく。ビール会社の年間販売量の約4割をこの時期に出荷する“かき入れ時”。年間のシェアを大きく左右するだけに各社の販売競争に熱が入る。

 2019年は食品や原材料価格が高騰し、また、秋の消費増税を控えている。商品価格やコストパフォーマンスに対する消費者の目が厳しくなっており、各社がビール類(ビール、発泡酒、第三のビール)市場への影響も踏まえながらの戦略を展開している。

主力に重点


アサヒ 鮮度第一、製造翌日に出荷
 「スーパードライ」を再活性化する―。3月に就任したアサヒビールの塩澤賢一社長はこう強調し、主力ビールブランドで拡販を目指す。この一環で“鮮度”を最大限にPRする鮮度パックをGW前と6月14日に投入する。これまで「製造後3日以内に出荷」してきたが、出荷判定の時間短縮などの工夫により「製造後翌日に出荷」。ビール工場の“できたてのうまさ”を訴求する。

 また、スーパードライのおいしさを改めて認知してもらうため、全国9都市で30万人規模の街頭サンプリングも始めた。サンプリングは17年ぶりだ。

 「スーパードライは30年以上が経過。ロイヤルカスタマーが変化している。セグメントマーケティングで若年層のカスタマーを開拓する」(塩澤社長)ことも重点課題だ。

 瞬冷辛口は18年に発売し、スッキリした味わいで若年層を中心に好評だ。これをリニューアルし、発酵度を高めて後味の良さを向上したほか、アルコール分を5・5%に高め飲み応えも良くした。

 ザ・クールは小瓶(334ミリリットル)のみを業務飲料店向けに投入した。辛口の生ビールの骨格を踏襲し、苦みや渋みを抑えた味わい。若者が仲間同士で集まり瓶から直接飲用する新たなスタイルを提案している。

キリン 飲み飽きない味追求
 「奇策はない。ビールの本物の価値を高めるだけ」―。キリンビールは重点ブランドを集中的に拡販する。最重点として旗艦ブランド「一番搾り」を4月にリニューアル。布施孝之社長はマーケティング戦略をこう説明する。“飲みやすい、飲み飽きない味”を追求し、ホップの配合を工夫するなど、麦のうま味とホップの風味の調和を高めたという。300万人規模のサンプリングを実施するなどPRを積極展開。19年の販売目標で前年比4・1%増の3080万ケース(1ケースは大瓶20本換算)を目指す。

 また、第三のビール「本麒麟」ブランドの育成も柱の一つだ。18年3月に発売し、大ヒットを飛ばした。19年の販売で前年比46・8%増となる1380万ケースの大幅増を目指している。今年に入り発売1年も経たずにリニューアルを実施。本格的なビールの味わいに近いことが特徴だが、ドイツ産ホップの増量などによりさらに飲み飽きない味を高めたという。

 今秋の消費増税を前に消費者は価格に敏感になっている。第三のビールは酒税が20年10月から段階的に引き上げになるものの、それまで価格的に有利になるため、キリンはこのカテゴリーでメーンの「のどごし」と第2の柱の本麒麟を確立する。
リニューアルしたビール「キリン一番搾り」をPRする布施社長

“泡”で攻勢


サントリー 新マシンでアピール
 きめ細かく美しい“神泡”のビールを店頭や新幹線で売り込み―。サントリービールは神泡によるビール「ザ・プレミアム・モルツ」のプロモーションを加速している。18年に缶商品などに同梱し好評だった「神泡サーバー」で、今年は新型を投入。1―3月の販売で4%増と好調だ。

 缶商品に装着するだけで神泡を簡単につくれる「神泡サーバー」。新型は「洗うのが面倒」という声に応えて洗浄不要のタイプを開発した。店頭での実演により好調な売れ行き。当初は8月末までに120万個を投入する計画だったが50万個前倒しし、170万個に引き上げた。

 また、東海道新幹線(東京―名古屋間)の一部車両で同サーバーによるビールの提供を実施。対象列車のビール販売数量が前年同期比4割増となったため、販売期間を8月末まで延長する。料飲店向けには泡に絵をプリントできる「泡アート機」を提供しており、19年中に500店に導入を目指す。

 また、第三のビールでも積極攻勢に出る。2月発売の「金麦〈ゴールド・ラガー〉」は本格的なコクをPRし需要が伸び、年間販売目標を当初の約3割増となる440万ケースに引き上げた。4月にはキレ味を特徴とした「マグナムドライ〈本辛口〉」も投入している。
新幹線で新型サーバーを使って「神泡」をPR

サッポロ 酒税一本化見据え刷新
 「ビールの再強化宣言」―。サッポロビールの高島英也社長はこう強調し、「黒ラベル」「ヱビス」などビールブランドの活性化を目指している。ビール類の酒税は20年から段階的に集約され26年に一本化。ビールは現行の77円(350ミリリットル)から54円ほど(同)となるためメリットが大きく需要増が見込める。これを見据えてビールに注力する。

 黒ラベルは18年まで4年連続で販売増を達成。今年に入り、リニューアル発売した。リニューアルではビールの特有のおいしさである泡に着目し、“白く美しい泡”を楽しめるように、製造方法などで工夫したという。

 ヱビスブランドでは本格エールタイプのビール「ヱビス プレミアムエール」を通年発売した。「本物・本格」というイメージに沿って打ち出した商品。

 また、新しいビールの提案として「イノベーティブ・ブリュワー」ブランドも本格展開。ホップにこだわるビール「ザッツ ホップ!」シリーズとして“幻のホップ”と呼ばれる「ソラチエース」を使った「SORACHI1984」を発売した。

 また革新性のビール「ザッツ ワオ!」シリーズでは飲みやすさにこだわった「スカイピルス」を6月に投入する。
(文=編集委員・井上雅太郎)
リニューアルした「サッポロ生ビール黒ラベル」
日刊工業新聞2019年5月2日

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